「——よし。準備万端!」

 私は千鶴(ちづる)星那(せいな)。なぜか苗字を名前と勘違いされがちな中等部一年生。先祖が有名な人だとか何とか言われてるけど、私は興味なし。
 私が大好きなのは…この制服たち‼たくさんのオプションがあるうえに、有名なデザイナーがデザインしたからか、もうすっごく可愛いの!
 式典用の制服はチャコールグレーのジャケットに(あかね)色と紺青(こんじょう)色のチェック柄のボトムスと、お揃いのネクタイ。ここまででも可愛いのに、桃色ベース・青色ベース・黄色ベースのチェック柄のボトムス、紺色のパーカーだったり、生成(きなり)色や桔梗(ききょう)色のカーディガンやベスト、パステルカラーのネクタイやリボン…普段の制服だけでも話し始めたら止まらないレベル!
 盛夏服は特にお洒落。女子はムラサキクンシランのような優しい紫色のワンピース、男子はライン入りのシャツに紫紺(しこん)色のズボン。白の帽子なら何をかぶっても良いところが嬉しい。

「おーい、ちーづるさーん!」
「せーな!早く来てよ!」
「あ、はーい!その声は、六華(りっか)結乃(ゆの)?」

 私の友達の、望月(もちづき)六華と一条(いちじょう)結乃。小学生の頃からの仲良しで、この二人だけは家のチャイムを押さずに入ってもいいと約束している。

「いつまで制服に見とれてるの?遅れちゃうよ…」
「ごめんごめん。靴下だけでも履かせて。」

 そう言って、校章入りの黒の靴下と黒のローファーを履いた。通学カバンにはローマ字で私の名前が刻まれている。

「お待たせしました、行こう!」
「あー、もう…」
「やっと来た。早く行こう!」

 季節は春。ウグイスが鳴き、色とりどりで可愛らしい花が咲き乱れている。スギやらヒノキやらの花粉が飛ぶのは面倒だけど…ね。

「そういえばさ、今日からクラブ体験が始まるけどみんなはどこに行くの?」

 六華は首を傾げながら私たちに聞いた。

「私は吹奏楽部。オーボエを吹いてみたいの!結乃は弓道部だったっけ?」
「んー…今日は弓道部の見学がないみたいだし、星那に付いて行こっかな。」
「みんな吹奏楽部を見に行くの…?私、軽音部を見に行く予定なの…」
「おー、カッコいいじゃん。」
「なんか、今年から吹奏楽部でも電子楽器を使うって噂があるらしいよ。」
「ふーん。じゃあ吹奏楽部でもいいかも。今日は軽音部を見に行くけどね。」

 歩いている間は、しりとりの時間。

「天然水!」
「い…椅子!」
「それさっきも言ってなかった?」
「えー…また?」

 この瞬間まではいつもの光景…だった。

「え⁈」
「六華?どうかしたの?」
「あそこ!四階の右から三番目の部屋!」
「え…?」
(六華も結乃も…何かあったのかな?まあ、なんでもいっか。)

 そうやってボーっとしながら歩いていると——

「ちょっとなんで星那はそんなにボーっとできるの⁈」
「星那…?あの部屋…」
「え…?」

 六華が指をさしている方向に目をやると、そこはサファイアを連想させるような青色の光が満ちていた。

「何が起きているの…?」
「分かんないよ…」
(まさか…まさかだけど…都市伝説系の何か…⁈)

 正直に言おう。私は、都市伝説だとか幽霊だとかが本気で苦手なタイプである。驚かされてしまえば絶対に叫んでしまうくらいのビビリで、一定の人からは『兵器』とも呼ばれてしまうレベル。

「ゆ、ゆのお…」
「お願いだから叫ばないで…星那の叫びは兵器みたいなものだから…」

 よく見たら人影もある…これ…私たちのこれからの学校生活…大丈夫なの?

(もう心配しかない!泣きそう!)

 若干開き直って半泣きの私と、開いた口が塞がらない状態の六華、私を兵器にさせないようにと努力する結乃。傍から見ればカオスだろうけど、私たちの視線の先では、絶対に信じられないような光景があった。

「まあ、一旦教室に行かない…?時間も時間だし…」
「分かった…」
「——ごめん意識半分飛んでた。」
「「…は?」」

 学校が始まってまだ数日しか経ってないのに、大好きな学校が嫌いになりそう…
 それもこれも、都市伝説(仮)のせいだけど…

「ん?あれ…よく見たらただの人間?」
「え?ホントだ。」
「ふぇ?」
「星那、あれは多分だけど生身の人間だよ?」
「え?」
(ちょっと待ってますます分からないんですけど⁈)

 ダメだ…怖すぎてフワフワしてきた…

「え?星那⁈」
「は⁈」

 六華と結乃の声が聞こえた後からは、もう何も分からなかった。