夏といえば、夏祭り。今度、六華と結乃の三人で夏祭りに行くことになった。

「で、私に浴衣を着てほしいと…」
「「うん!」」

 そう、その夏祭りのために浴衣を着てきてほしいと六華と結乃に言われた。なぜかと言いますと…

「星那は絶対に似合う!」
「そうだよ!浴衣、あるでしょ?」
「ま、まあ…」

 よく分からないけど、二人的には私は浴衣が似合う(と、思われている)らしい。

「——嫌?」
「別に…嫌ってわけじゃないけど…」

 浴衣は家にある。着られないこともない。お母さんに言えば何とかなるはずだけど…

(私あんまり似合わないんだよね!)

 なぜみんなにことあるごとに服が似合っていると言われてしまうのか…本当によく分からないが、そういう錯覚がみんなに見えているの…?

「本当にお願い!私たちも着るからさ!」
「星那の浴衣姿、見たいです!」

 逃れようがない。もうここまで来てしまったら、私も観念するしかない。

(あ、そうだ。)
「その分、お願いを聞いてくれたらいいよ。」
「何なりと。」
「何でも言って!」

 交換条件作戦、強い。

「三人で帯留めを手作りしない?」

 ♢ ♢ ♢

「お母さん。」
「何?」

 私のお母さん、千鶴あんず。仕事の傍ら、趣味で集めているビーズがあるから、それで帯留めを作ろうと考えた。

「実は…」
「——もちろん。ここの箱に入っているビーズだったら何でも使っていいからね。使いやすい平紐もお父さんに用意するように頼んでおくからね。六華ちゃんと結乃ちゃんにも伝えておいて。」
「うん。ありがとう。」

 私のお父さんは、千鶴陸也(りくや)は、機織り職人として働いている。そんなお父さんの趣味は、平紐作り。機織り機みたいな大掛かりな機械が必要ないから楽だと言っていたことがある。
 こう見ればこの一家も、私の居場所の一つでもあるクラリネットパートに負けない癖の強さがある気がしてきた。

(まあ、この癖の強さがあってこその千鶴家だからね。)

 ♢ ♢ ♢

「こんなに綺麗なビーズ…初めて見た…」
「何だか使うのがすごく申し訳なくなってきちゃった…」
「そんなの気にしなくていいよ!それに、そんなに高いものではないからね!」

 まずはメインになるビーズ選び。

(——これにするか。)

 私が選んだのは、少しラメが入った紺色のビーズの中に、ひと際輝く金箔が一か所にだけ埋め込まれているデザイン。選んだ理由は、私が生まれた季節でもある秋は一等星が一つしか見えないから、そして、私の名前にもつながるから。

「みんなは選べ——」

 みんなは選べた?そう聞こうとしたけど…

「これも可愛いし…でもこっちも…」
「——決まんない…」

 まさかの、即決したのは私だけ。

(え?待って待って…話しかけにくい…)

 真剣に選ぶ六華、結乃の隣で、どのタイミングで話しかけるか迷ってしまう私。

(もうしばらく待つか…)