「明日からは夏休み、けがや病気のないように過ごしてくださいね。」

 明日からは夏休み。だけど…

(吹奏楽部には夏休みなんてあって無いようなもの、コンクールまではずっと練習漬けって、未来先輩が言っていたっけ…)

 休みはほとんどなし、コンクールに出ない私たちも他のイベントに向けての練習とのこと。

(まともな休みなんて、お盆だけかな…)

 宿題を最終日までため込みがちな私にとってはすごく困る。この感じだと、塾でも宿題をする羽目になりそう。

(五教科ワーク、作文、美術ポスター、読書感想文、レポート…)

 多すぎる。頭がパンクしそう。

(こんなこともあろうかと、読書感想文の本文を前から考えておいて良かった。パソコンに打ち出しているはずだから、もうこのまま写せばいっか。)

 ♢ ♢ ♢

 夏休みの初日から練習。よく分からないけど、中等部一年生は合奏を見学しろ、とのことらしい。

「じゃあ、頭から。」

メトロノームが鳴り響く。これが練習の始まり。

「…え?」

 音が鳴り始めた途端、辺りが暗くなった。

「停電…?」
「え…続行するの?」

 ざわざわとする私たち。すると…

「光ってる…?」

 この光は、私があの春に見た光だった。

「星那…結乃…あれって…」
「あれだよね…星那がビビり過ぎた時の…」

 まさか、この光で私が失神してたの?

「はい、一旦止めるぞ。」
(合奏…止まった…)
「これ、言っていなかったな。これが魔法だ。」
(これが…?ショボい…)

 まさかの光るだけの魔法だったとは…

「ショボいと思っただろ?これだけじゃないんだよな。もう一度頭から。」

 次はさっきよりももっと部屋が暗くなり、光の色の種類が増えた。そして、この季節ではありえない光景になった。

「さく…ら?」

 厳密に言うと、桜の花びららしきものがたくさん舞っていた。

(信じられない…)

 こんなにフワフワした感覚になるのは、初めてではない。でも、あの時とはまた違ったフワフワした感覚になっている。

「本当はもっと凄い技があるけど、今のみんなはここが限界なんだ。」

 ——いや、ここまで出来ている時点で十分だと思うけど…

「ここを超えたら、一応魔法が使えるようになるんだ。」

 うん…よく分からない。

「先生、あの…」
「どうした葉月(はづき)。」
(葉月君?)

 葉月智哉(ともや)君。同い年で、チューバ担当。ちなみに自らチューバを志願したとのこと。実力は先輩たちに匹敵するレベルって、先生が言っていたっけ…

「その魔法って、本気を出したら中等部一年生のみんなは使えるようになりますか?」
(確かに…気になる。)
「まあ、できるだろ。先生は高校一年生辺りで使えるようになったからな。」

 結構早かった。思っていた以上に習得するのが早かった。

「では、もう一度頭から。」
(また光るの…?)

 それから一時間ほどは、先輩たちが光りながら演奏する姿をみんなで見ていた。