「これで、今日のクラブを終わります。ありがとうございました。」
『ありがとうございました。』

 あの後からも練習は続き、たくさん入ってあったはずのアップルティーもあと少しになってしまっていた。

(これから歩いて帰らなきゃいけないのか…)

 伯父の陸羽を含め、私の家族はみんな仕事で忙しいので、相当な雨か異常な気温じゃないと車での送迎はしてくれない。

(あ、流星と菜々星のお迎え…忘れてた!)

 星那の弟で小学三年生の流星(りゅうせい)と、妹で小学一年生の菜々星(ななせ)。五年生にも弟、光星(こうせい)もいるが、学校終わりには塾に行くので、家には流星と菜々星の二人だけになってしまう。それは流石に防犯上危ないということで、今は民間の学童保育所に入ってもらっている。

「まあ、どうせ光星も迎えに来るか。」

 光星は姉、弟、妹の三人のことが大好きすぎて、迎え当番ではない日も絶対に学童保育所に足を運ぶ。

(でも、ちょっと急がないと…)

 流石に小学生三人をほったらかしておくのは可哀想だし、みんな危なっかしいからちょっと心配。

 あれからしばらく、上り坂を走った。きつい。でも…

「見えてきた…」

私が小学生の時も通っていた、『小鳥学童保育所』。外装も内装も、何なら遊具も綺麗。

「こんにちは、千鶴流星と菜々星の姉です。」
「あら星那ちゃん、いらっしゃい。ちょっと待っててね。」

 ここの先生も、私が通っていた時から変わっていない。

「お姉ちゃーん‼」
「菜々星、ちゃんといい子にしてた?」
「うん!今日はね、凪ちゃんと遊んでたんだ!」
「そっか。遊んでもらえて良かったね。」

 菜々星から聞いた話によれば、凪ちゃんは小学二年生で、この春からここに入ったらしい。苗字は知らないけど、すごくいい子。

「あ、凪ちゃん!いつも菜々星と遊んでくれてありがとう。」
「そんな…こちらこそ、いつもありがとうございます…」

 小学二年生で、完璧に敬語が使えている…こんな子本当にいるの?

「あれ?そういえば流星は?」
「あっちのブランコで、光星兄ちゃんと遊んでる。」
(元気だな…)

 光星も来ていたんだ。まあ、これくらい遊んでくれた方が夜もすぐ寝てくれるだろうし、ちょうどいい。

「こんにちは、有島凪の兄です。」

 ちょっと待て、めちゃくちゃ聞き覚えのある声だが…

「え?千鶴…さん?」
「有島…?」
(凪ちゃんって、有島の妹だったの⁈)

 ♢ ♢ ♢

「え⁈菜々星ちゃんって千鶴さんの妹だったの⁈」
「うん。あと、流星と光星も私の弟。」

 坂を下りながら、有島に事情を説明する。

「いつも凪から菜々星ちゃんのことは聞いていたけど、まさか姉妹だったなんて…」
「いや、私もびっくりよ。いつも妹と仲良くしてもらっている女の子のお兄ちゃんが、自分と同じクラスの、何なら隣の席の男子だなんて…そんなに起こることじゃないでしょ…」

 有島に兄弟がいるのは少し前に聞いていたし、私にも兄弟がいることは言っていた。だけど、まさか自分の弟や妹と同じ学童保育所に通っているなんて…

「凪、今日の晩御飯はコロッケにする?」
「うん。ポテトサラダも買ってくれる?」
「もちろん。」

 にしても、仲良しな兄妹だね…

「素敵ね。」
「ん?」
「ふふ、何でもない。」

 ここから見えるのは、綺麗な夕日…と、少し前で走り回る光星と流星。

「あんまり走り回って、怪我しないでよねー!」
「「はーい!」」