「らっしゃーい…って、おほしか。」
「うん。ちょっと聞きたいことがあって…」
「何だ?楽譜探しにでも来たのか?」
「まあ、うん。」

 放課後、星那は一度家に帰ってから陸羽の店に行った。

「えっと、『一つの赤いバラ』のソロ楽譜、オーボエ用のってある?」
「あー…クラリネット用は見たことあるけどな…」
「まあ、見てみる。どこら辺にあるの?」
「おう。『ひ』だから多分、一番右奥の棚の『ひと③』のファイルだな。」
「区切り方が気持ち悪いね…」
「そこか?」

 右奥の棚まで、早歩きで向かう。

(えーと、多分ここだよね。)

 そこには陸羽の説明通りのファイルがあった。

(えーっと、どこかな…)

 一つの赤いバラのソロ用ではない楽譜や、オーボエ以外の楽譜はずっと出てくる。

「無かったら困るのにな…」

 せっかく有島が楽しみにしてくれているのに、ここで見つからなければ意味がない。絶対に見つけ出さないといけない…

(お願いだから出てきて…!)

 ファイルも残り1ページ。心の中で一生懸命に願いながら、ページを掴み、めくった。

「あっ…」

 あった。見つけた。

「りく助、あったよ。」
「そうか。データが書かれてあると思うから、読み上げてくれ。」
「うん。えっと…」
「——よし。少しだけ待っておけ。」

 待っている間は、近くのソファーに座っていた。

(まあ、無断転載禁止のためにだと思うけど、でかでかと“SAMPLE”って書かれると内容が分からないのよね…)

 確かに、誰かが心を込めて作った曲にお金を払わないのは言語道断。かといって、買うまで分からないのは少し緊張する。

「おい、出来上がったぞ。」
「ありがとう。いくら?」
「ファイルに書いてあるはずだから、それを見ろ。」
「はーい。」

 ♢ ♢ ♢

「——疲れた。」

 あれから数時間、必死になって練習をした。けど…

「何よこの連符…本っ当に吹きづらい。」

 だけど、原曲にも同じような部分があるので致し方ない。練習する他に道はない。

(それにしても、有島ってこういう感じの曲とか聞くのね。何だか、意外。)

 調べた感じによると、『一つの赤いバラ』は、少し前のテレビドラマで使われていた曲とのこと。恋愛が主軸の物語だったらしいので、この曲の歌詞などにも恋愛が少し絡んできている。

(『一目惚れ』『あなたしかいない』…曲名には会っているけど、有島には何だか合わない気もするような…まあ、人の恋愛には興味ないし。)

 もう一度頑張ってみよう、星那がそう決意すると、星那のスマホが鳴った。

「…誰?」

 スマホを覗くと、メッセージアプリからだったらしい。

「あ、結乃からだ。」
『せいなー! 先生、明日の部活にも来れないらしいから、私たちは個人練習だって!』

 先生…どれだけ忙しいの…?

『了解! 教えてくれてありがとう!』

 明日は、あの曲を頑張ろっと。