「12時方向10メートル先にはぐれオーガ1」
「はい!」
――グシャ
「女神様、10時方向20メートル先にブラックベアが1体います」
「あいよ!」
――ベキッ
「9時方向30メートル先にオーク3。内1体は弓使いだ。気をつけて」
「了解です!」
――ドガッバキッグチャッ
◇ ◆ ◇ ◆
「【アイテムボックス】……【アイテムボックス】が欲しい!」
大量の肉を引きずりながら嘆く私にヴァルキリエさんが、
「いるよ、【収納魔法】持ち」
「えっ、ヴァルキリエさん使えるんですか!? ならこの大量のお肉を早く亜空間に収納してください!」
「いや、残念ながら私じゃないんだ。フォートロン家の奥さんの一人、ステレジア君が使えるのさ」
「なんと! 何とかして連れてこられませんかね?」
「教えておいて何だが、難しいだろうねぇ……。ステレジア君は1等級。旦那様が領都からは出したがらないだろうし、彼女も1等級の地位をみすみす失うような真似はしないだろう」
つまり、辺境伯のイエスマン(ウーマン)というわけか。
「1等級。そうか、4等級から逆に上がるパターンもちゃんとあるんですね」
「あはは、そりゃそうさ」
「あのぅ、聞いて良いか分からないのですが……ヴァルキリエさんも1等級なのでしょうか?」
【アイテムボックス】はとても便利な魔法だ。
その【アイテムボックス】持ちが1等級なら、【闘気】持ちで領軍を率いる将軍でもあるヴァルキリエさんも、きっと1等級のはず。
「いや~、私は万年2等級でね」
「えっ、何で?」
「私はほら、このとおり『自由奔放』だから」
「あー……」
『自由』などと回りくどい言い方をしているけれど、要は辺境伯のやり方に懐疑的ということなのだろう。
特に、恐らくはバルルワ村に対する処遇について疑問を感じているようだ。
『キミは屁理屈の天才だね』などと言いながら私の行動――バルルワ村に対する干渉を見逃してくれるくらいだからね。
イエスマンになった方がずっと楽なのに。イエスマンにならなきゃ友愛ポイントを下げられてしまうのに。
けっして保身に走らない、優しい人なんだ。
「私、ヴァルキリエさんと出会えて良かったです」
「何だい、急に。照れるじゃないか」
「オ、オレも!」クゥン君が割り込んできた。「オレも女神様と出会えて良かったです!」
「えへへ。クゥンキュンは可愛いなぁ」
なんて、デレデレ甘々な会話をしていたのがまずかったのだろう。
鉄神の足元をおろそかにしてしまった私は、足元の『ナニカ』に足を取られ、盛大に転倒してしまった。
――ガラガラガッシャ~ン!
「わぷっ!?」
「女神様!?」
「大丈夫かい、エクセルシア嬢?」
「は、はい……なんとか」
ハッチから這い出した私を出迎えたのは、
「コレにつまづいたようだね。これは……馬車?」
半ば土に埋まった、馬車のような人工物。
だが、その車体は明らかに鉄でできており、何よりその車輪が――
「ゴムタイヤ! こっ、これ、自動車だぁ~~~~!!」
中世ヨーロッパ世界に自動車とか、パないなモンティ・パイソン帝国!
◇ ◆ ◇ ◆
ってなわけで自動車を鉄神のデバッグモードで起動させ、自動操縦モードで動かす。
狩った獲物を鉄神と自動車に分散させて村に運び入れたところ、村人たちはみなビビり散らかして逃げ出してしまった。自動車が怖かったらしい。
「め、女神様、それは何ですかな?」
「あはは……まぁ、鉄神様の親戚みたいなものです」
尻尾を丸めている村長さんに説明し、戻ってきた村人たちにオーガ1体、ブラックベア1体、オーク3体を引き渡す。
「じゃあ私は、日が暮れるまでに壁を造ってしまいますね」
今現在、バルルワ村周辺はこのようになっている。
北
↑
魔の森・・・
魔の森・・・
新しい畑 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ 村 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
集積地 魔の森・・・
魔の森・・・
魔の森・・・
これを、こうする。
魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
■ 畑 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ 村 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■集積地■ 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
魔の森・・・
それも、急場しのぎの土塁じゃなくて、立派な城壁で。
「おおお!」私が地面に描いた図を見て、目を輝かせるクゥン君。「これでついに、バルルワ村に城壁が! でも、大丈夫なんですか?」
バルルワ村に城壁が存在しない理由。
それは、辺境伯が『壁を作るのは辺境伯への敵意あり』とみなして城壁を作らせてくれなかったからだ。
私が勝手に城壁を作ってしまったら、私が辺境伯に叱責され、『友愛ポイント』とやらをがっつり減らされてしまうだろう。
だが、
「たまたま、集積地の間に村があっただけだからね」
そう。
私はバルルワ村を城壁で覆おうとしているのではない。
辺境伯領のために用意した集積地を魔物たちから守る必要があり、その集積地の間に、たまたまバルルワ村が存在していただけなのだ。
村の北部にあるのは『集積地』ではなく『畑』だが、それも言い訳は考えてある。
ゆくゆくはこの地を領都と物流網で結び、そこそこの人数にこの地で働いてもらうようにする。ここの従業員の食を支えるための畑だから、つまり集積地の一部ってことだ。
「あ~っはっはっはっ! さすがは屁理屈の女神様だね」
「褒めてないですよね、ソレ?」
「いいや、褒めてるよ? さぁ、それで」
づか顔でニヤリと微笑むヴァルキリエさん。
イケメンまぶしい。
「次はどんな光景で、私を驚かせてくれるのかな?」
「はい。村を覆うための壁なんですけどね」
私たちが今いるのは、村の南端。
集積地として岩肌を切り開いた際に、あえて残しておいた巨大な岩山の前だ。
「この岩山から、壁を切り出そうかと思いまして」
「あ~っはっはっはっ! 岩山から! 壁を! 切り出す! どうやって!?」
「こうやって」
私は鉄神に乗り込み、コマンドを叩く。
>mag /windcutter
――ビュッ、シュバババババッ!
鉄神の両手から放たれた疾風の刃が、岩山をスライスしていく。
さらに、
>mag /windcutter
で成形。
あっという間に、何百枚もの『壁』――厚さ50センチ、幅5メートル、高さ10メートルの岩の塊が現出した。
「こっ、こっ、こっ……」
おや、ヴァルキリエさんがニワトリになっとる。
「さすがは女神様!」
一方のクゥン君は平常運転だ。
「これはすごいね!?」
目の色を変えるヴァルキリエさん。
軍事転用に夢を膨らませているのだろう。
「えへん。でしょう? 実はこの子、魔法も使えるんですよ」
「魔力は? キミの体内から吸い上げているのかい?」
「そういうモードもありますけど、今は外気から取り込むモードでやってますね。特に、東の方から風と共に大量の魔力が流れてくるので」
「『魔の森』か。魔物が多いから魔力で満ちているのか、魔力が多いから魔物で満ちているのか。詳細は不明なままなんだけど、とにかくこの地は空気中の魔力濃度が高い」
「やっぱりそうなんですね」
私は『壁』の一枚を持ち上げて、鉄神の怪力に任せてずぼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと地面に突き立てる。
「ほら、こんな感じで村を覆い尽くしてしまいましょう!」
「は、ははは……もう、笑うしかないよ」
「さすがは女神様!」
こうしてバルルワ村もとい『魔物肉の集積地』は、堅牢な城壁によってまるっと囲まれた。
◇ ◆ ◇ ◆
「あのぅ……折り入ってお願いがございまして」
翌日午前、村長さんがめちゃくちゃ恐縮した様子で話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「この度は、村の北側に巨大な畑を広げていただき、本当にありがとうございました。それで、さっそく種を植えたいのですが、あいにくと水が不足しておりまして。誠に申し訳ございませんが、鉄神様のお力をお借りして、井戸を掘っていただくことはできませんでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。どの辺りに掘りましょうか?」
「おおっ、ありがとうございます!」
「ところで、今は水、どうしておられるんですか?」
「はい。北の山から流れる川に頼っております」
そう。
この土地は、東は『魔の森』、北は山に囲まれたとても過酷な『さいごの村』。
魔の森は王国領内とは比べ物にならないくらいに多くの魔物であふれた地で、中でもその親玉が、超巨大なドラゴンらしい。
地龍シャイターン。
この世界に4匹いると言われるドラゴン――
地龍シャイターン
水龍レヴィアタン
火龍ポイニックス
風龍ルキフェル
の、地龍シャイターン。
何で、ラスボスがこんな村の真横に住んでいるのよ!
いや、そんなのが住んでるからこそ、モンティ・パイソン帝国はゲルマニウム王国を落としきれなかったのかな。
地龍シャイターンが森から出てきたことはないらしいし。
魔の森だけでも超ヤバいのに、北の山も魔の森に負けず劣らず魔物にあふれているのだそうな。
じゃあなぜ、こんな危険な場所に村を構えているのかというと、北の山から魔の森にかけて川が流れており、その川から命懸けで支流を引いてきたからなのだそうだ。
本当はもっと、魔の森から距離を取った西の方に村を築きたい。
けれどそうすると、川が使い物にならないほど細くなってしまう。
結果、魔の森にほとんどぴったりくっついたこの場所に、バルルワ村が作られることになった。
「現在の水の量では、新たな畑を耕すにはとてもとても」
確かに、村の中央を流れる川は水がちょろちょろと流れるばかりで、その終着点であるため池も、いつも村の女性たちが水を奪い合うような有様だ。
当然、バルルワ村の人たちは過去に何度も井戸を掘ろうと試みた。
が、畑を広げられなかったのと同じ理由で、地質が硬すぎて井戸を掘れずにいたのだそうだ。
ふむ。
先に水問題を解決すべきだったか。
ミスったな。
「あっ、けっして女神様を責めるような意図はございません!」
村長さんが慌てだす。
やば、顔に出てしまったか。
「女神様は我々の命をお救いくださり、こうして頑丈な壁で我々をお守りくださっておられます。これ以上の贅沢を申すなど、大変申し訳ないと思うのですが……」
「いえいえ、気にしないでください。さっそく向かいましょう」
私の中には、2つの気持ちがある。
1つは、平和主義で戦争知らず、のほほんとした元日本人として純粋な善意。
村人たちの生活が少しでも楽になるのなら、手を貸してあげたい。
このままじゃ、クーソクソクソ辺境伯に騙し討ちされるような形でこんな場所に住まわされている村人たちが、あまりにも可哀そうだ。
もう1つは、ややドライで打算的な思考。
村の、私に対する『依存度』を高めたいのだ。
村長さん然り、他の村人さんたち然り、バルルワ村の人たちは困ったことがあると私に相談しにくるようになった。
私、順調にこの村を実効支配しつつある。
辺境伯を糾弾し、復讐するための第一歩である、
『領地貴族になる。それも、辺境伯領と隣接した土地の』
が着実に進みつつある。
そう、私はそのために、無理を押してこの村を開拓しているのだ。
あとは、当の辺境伯、またはその上位者に『この土地はエクセルシアの物だ』と認めさせる一手があれば目的達成なんだけど……何か、何かないか。
正直、ちょっと焦っている。
だって、早いとこ領地貴族になって独立(離婚)しなきゃ、あのクーソクソクソ愛沢部長に抱かれるんだよ!?
そんなの、マジで、死んでもごめんだよ……。
ちなみに、昨晩は辺境伯との夜伽を回避できた。
『バルルワ村を含む集積地を、高さ5メートルの壁で囲みました。あとオーガ1体、ブラックベア1体、オーク3体分のお肉を持ってきました。領都に卸してもいいですか?』
って、報告したら、辺境伯ったら卒倒しちゃったよ。
あはは。
これからも、あの手この手で辺境伯の胃にダメージを与えつつ、夜伽を回避し続けるつもりだ。
が、いつまで持つか。
あまり無茶をすると、連帯責任でクローネさんまで友愛ポイントを下げられちゃうし。
◇ ◆ ◇ ◆
「じゃ掘りますんで、離れてくださーい!」
「「「「「は~い!」」」」」
北の畑の一角で、鉄神の拡声器を使って野次馬に次げると、元気の良い返事が返ってきた。
「あと、気になるのは分かりますけど、みなさん仕事してくださいね~」
「「「「「は、は~い……」」」」」
あはは。村人さんたち、尻尾丸めてら。
まったく、調子いいなぁ。
でもまぁ、十年以上解決しなかった井戸問題が解消するかもしれない瞬間を見届けたいって気持ちは、とっても良く分かる。
鉄神に搭乗している私は、
>dig
とコマンド入力。穴掘りモードだ。
深く深く、ひたすら深く真下へ掘っていく。
掘って掘って掘って、鉄神の腕力に任せてどばーーーーっと土を外に放り投げて。
掘れども掘れども水は出てこない。
仕方ない。この穴が井戸として実用できるかは度外視して、水脈がどの辺りにあるかを知るためにも、水が出るまで掘り進めよう。
>dig
>dig
>dig
>dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig……
数十分ほども経ち、何百メートル? その倍? いや、もっと?
訳分からないくらい掘った、そのとき。
――ズゴゴゴゴゴゴ……ドッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
穴の底が割れ、とてつもない量の水が噴出してきた!!
圧倒的水圧で鉄神の体を押し上げる。
鉄神が地上へ放り出された。
冗談みたいな水量。
しかも何か、ホカホカしてる。
「え、これ……お、お、お、温泉だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「はい!」
――グシャ
「女神様、10時方向20メートル先にブラックベアが1体います」
「あいよ!」
――ベキッ
「9時方向30メートル先にオーク3。内1体は弓使いだ。気をつけて」
「了解です!」
――ドガッバキッグチャッ
◇ ◆ ◇ ◆
「【アイテムボックス】……【アイテムボックス】が欲しい!」
大量の肉を引きずりながら嘆く私にヴァルキリエさんが、
「いるよ、【収納魔法】持ち」
「えっ、ヴァルキリエさん使えるんですか!? ならこの大量のお肉を早く亜空間に収納してください!」
「いや、残念ながら私じゃないんだ。フォートロン家の奥さんの一人、ステレジア君が使えるのさ」
「なんと! 何とかして連れてこられませんかね?」
「教えておいて何だが、難しいだろうねぇ……。ステレジア君は1等級。旦那様が領都からは出したがらないだろうし、彼女も1等級の地位をみすみす失うような真似はしないだろう」
つまり、辺境伯のイエスマン(ウーマン)というわけか。
「1等級。そうか、4等級から逆に上がるパターンもちゃんとあるんですね」
「あはは、そりゃそうさ」
「あのぅ、聞いて良いか分からないのですが……ヴァルキリエさんも1等級なのでしょうか?」
【アイテムボックス】はとても便利な魔法だ。
その【アイテムボックス】持ちが1等級なら、【闘気】持ちで領軍を率いる将軍でもあるヴァルキリエさんも、きっと1等級のはず。
「いや~、私は万年2等級でね」
「えっ、何で?」
「私はほら、このとおり『自由奔放』だから」
「あー……」
『自由』などと回りくどい言い方をしているけれど、要は辺境伯のやり方に懐疑的ということなのだろう。
特に、恐らくはバルルワ村に対する処遇について疑問を感じているようだ。
『キミは屁理屈の天才だね』などと言いながら私の行動――バルルワ村に対する干渉を見逃してくれるくらいだからね。
イエスマンになった方がずっと楽なのに。イエスマンにならなきゃ友愛ポイントを下げられてしまうのに。
けっして保身に走らない、優しい人なんだ。
「私、ヴァルキリエさんと出会えて良かったです」
「何だい、急に。照れるじゃないか」
「オ、オレも!」クゥン君が割り込んできた。「オレも女神様と出会えて良かったです!」
「えへへ。クゥンキュンは可愛いなぁ」
なんて、デレデレ甘々な会話をしていたのがまずかったのだろう。
鉄神の足元をおろそかにしてしまった私は、足元の『ナニカ』に足を取られ、盛大に転倒してしまった。
――ガラガラガッシャ~ン!
「わぷっ!?」
「女神様!?」
「大丈夫かい、エクセルシア嬢?」
「は、はい……なんとか」
ハッチから這い出した私を出迎えたのは、
「コレにつまづいたようだね。これは……馬車?」
半ば土に埋まった、馬車のような人工物。
だが、その車体は明らかに鉄でできており、何よりその車輪が――
「ゴムタイヤ! こっ、これ、自動車だぁ~~~~!!」
中世ヨーロッパ世界に自動車とか、パないなモンティ・パイソン帝国!
◇ ◆ ◇ ◆
ってなわけで自動車を鉄神のデバッグモードで起動させ、自動操縦モードで動かす。
狩った獲物を鉄神と自動車に分散させて村に運び入れたところ、村人たちはみなビビり散らかして逃げ出してしまった。自動車が怖かったらしい。
「め、女神様、それは何ですかな?」
「あはは……まぁ、鉄神様の親戚みたいなものです」
尻尾を丸めている村長さんに説明し、戻ってきた村人たちにオーガ1体、ブラックベア1体、オーク3体を引き渡す。
「じゃあ私は、日が暮れるまでに壁を造ってしまいますね」
今現在、バルルワ村周辺はこのようになっている。
北
↑
魔の森・・・
魔の森・・・
新しい畑 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ 村 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
集積地 魔の森・・・
魔の森・・・
魔の森・・・
これを、こうする。
魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
■ 畑 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ 村 ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■ ■ 魔の森・・・
■集積地■ 魔の森・・・
■■■■■ 魔の森・・・
魔の森・・・
それも、急場しのぎの土塁じゃなくて、立派な城壁で。
「おおお!」私が地面に描いた図を見て、目を輝かせるクゥン君。「これでついに、バルルワ村に城壁が! でも、大丈夫なんですか?」
バルルワ村に城壁が存在しない理由。
それは、辺境伯が『壁を作るのは辺境伯への敵意あり』とみなして城壁を作らせてくれなかったからだ。
私が勝手に城壁を作ってしまったら、私が辺境伯に叱責され、『友愛ポイント』とやらをがっつり減らされてしまうだろう。
だが、
「たまたま、集積地の間に村があっただけだからね」
そう。
私はバルルワ村を城壁で覆おうとしているのではない。
辺境伯領のために用意した集積地を魔物たちから守る必要があり、その集積地の間に、たまたまバルルワ村が存在していただけなのだ。
村の北部にあるのは『集積地』ではなく『畑』だが、それも言い訳は考えてある。
ゆくゆくはこの地を領都と物流網で結び、そこそこの人数にこの地で働いてもらうようにする。ここの従業員の食を支えるための畑だから、つまり集積地の一部ってことだ。
「あ~っはっはっはっ! さすがは屁理屈の女神様だね」
「褒めてないですよね、ソレ?」
「いいや、褒めてるよ? さぁ、それで」
づか顔でニヤリと微笑むヴァルキリエさん。
イケメンまぶしい。
「次はどんな光景で、私を驚かせてくれるのかな?」
「はい。村を覆うための壁なんですけどね」
私たちが今いるのは、村の南端。
集積地として岩肌を切り開いた際に、あえて残しておいた巨大な岩山の前だ。
「この岩山から、壁を切り出そうかと思いまして」
「あ~っはっはっはっ! 岩山から! 壁を! 切り出す! どうやって!?」
「こうやって」
私は鉄神に乗り込み、コマンドを叩く。
>mag /windcutter
――ビュッ、シュバババババッ!
鉄神の両手から放たれた疾風の刃が、岩山をスライスしていく。
さらに、
>mag /windcutter
で成形。
あっという間に、何百枚もの『壁』――厚さ50センチ、幅5メートル、高さ10メートルの岩の塊が現出した。
「こっ、こっ、こっ……」
おや、ヴァルキリエさんがニワトリになっとる。
「さすがは女神様!」
一方のクゥン君は平常運転だ。
「これはすごいね!?」
目の色を変えるヴァルキリエさん。
軍事転用に夢を膨らませているのだろう。
「えへん。でしょう? 実はこの子、魔法も使えるんですよ」
「魔力は? キミの体内から吸い上げているのかい?」
「そういうモードもありますけど、今は外気から取り込むモードでやってますね。特に、東の方から風と共に大量の魔力が流れてくるので」
「『魔の森』か。魔物が多いから魔力で満ちているのか、魔力が多いから魔物で満ちているのか。詳細は不明なままなんだけど、とにかくこの地は空気中の魔力濃度が高い」
「やっぱりそうなんですね」
私は『壁』の一枚を持ち上げて、鉄神の怪力に任せてずぼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと地面に突き立てる。
「ほら、こんな感じで村を覆い尽くしてしまいましょう!」
「は、ははは……もう、笑うしかないよ」
「さすがは女神様!」
こうしてバルルワ村もとい『魔物肉の集積地』は、堅牢な城壁によってまるっと囲まれた。
◇ ◆ ◇ ◆
「あのぅ……折り入ってお願いがございまして」
翌日午前、村長さんがめちゃくちゃ恐縮した様子で話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「この度は、村の北側に巨大な畑を広げていただき、本当にありがとうございました。それで、さっそく種を植えたいのですが、あいにくと水が不足しておりまして。誠に申し訳ございませんが、鉄神様のお力をお借りして、井戸を掘っていただくことはできませんでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。どの辺りに掘りましょうか?」
「おおっ、ありがとうございます!」
「ところで、今は水、どうしておられるんですか?」
「はい。北の山から流れる川に頼っております」
そう。
この土地は、東は『魔の森』、北は山に囲まれたとても過酷な『さいごの村』。
魔の森は王国領内とは比べ物にならないくらいに多くの魔物であふれた地で、中でもその親玉が、超巨大なドラゴンらしい。
地龍シャイターン。
この世界に4匹いると言われるドラゴン――
地龍シャイターン
水龍レヴィアタン
火龍ポイニックス
風龍ルキフェル
の、地龍シャイターン。
何で、ラスボスがこんな村の真横に住んでいるのよ!
いや、そんなのが住んでるからこそ、モンティ・パイソン帝国はゲルマニウム王国を落としきれなかったのかな。
地龍シャイターンが森から出てきたことはないらしいし。
魔の森だけでも超ヤバいのに、北の山も魔の森に負けず劣らず魔物にあふれているのだそうな。
じゃあなぜ、こんな危険な場所に村を構えているのかというと、北の山から魔の森にかけて川が流れており、その川から命懸けで支流を引いてきたからなのだそうだ。
本当はもっと、魔の森から距離を取った西の方に村を築きたい。
けれどそうすると、川が使い物にならないほど細くなってしまう。
結果、魔の森にほとんどぴったりくっついたこの場所に、バルルワ村が作られることになった。
「現在の水の量では、新たな畑を耕すにはとてもとても」
確かに、村の中央を流れる川は水がちょろちょろと流れるばかりで、その終着点であるため池も、いつも村の女性たちが水を奪い合うような有様だ。
当然、バルルワ村の人たちは過去に何度も井戸を掘ろうと試みた。
が、畑を広げられなかったのと同じ理由で、地質が硬すぎて井戸を掘れずにいたのだそうだ。
ふむ。
先に水問題を解決すべきだったか。
ミスったな。
「あっ、けっして女神様を責めるような意図はございません!」
村長さんが慌てだす。
やば、顔に出てしまったか。
「女神様は我々の命をお救いくださり、こうして頑丈な壁で我々をお守りくださっておられます。これ以上の贅沢を申すなど、大変申し訳ないと思うのですが……」
「いえいえ、気にしないでください。さっそく向かいましょう」
私の中には、2つの気持ちがある。
1つは、平和主義で戦争知らず、のほほんとした元日本人として純粋な善意。
村人たちの生活が少しでも楽になるのなら、手を貸してあげたい。
このままじゃ、クーソクソクソ辺境伯に騙し討ちされるような形でこんな場所に住まわされている村人たちが、あまりにも可哀そうだ。
もう1つは、ややドライで打算的な思考。
村の、私に対する『依存度』を高めたいのだ。
村長さん然り、他の村人さんたち然り、バルルワ村の人たちは困ったことがあると私に相談しにくるようになった。
私、順調にこの村を実効支配しつつある。
辺境伯を糾弾し、復讐するための第一歩である、
『領地貴族になる。それも、辺境伯領と隣接した土地の』
が着実に進みつつある。
そう、私はそのために、無理を押してこの村を開拓しているのだ。
あとは、当の辺境伯、またはその上位者に『この土地はエクセルシアの物だ』と認めさせる一手があれば目的達成なんだけど……何か、何かないか。
正直、ちょっと焦っている。
だって、早いとこ領地貴族になって独立(離婚)しなきゃ、あのクーソクソクソ愛沢部長に抱かれるんだよ!?
そんなの、マジで、死んでもごめんだよ……。
ちなみに、昨晩は辺境伯との夜伽を回避できた。
『バルルワ村を含む集積地を、高さ5メートルの壁で囲みました。あとオーガ1体、ブラックベア1体、オーク3体分のお肉を持ってきました。領都に卸してもいいですか?』
って、報告したら、辺境伯ったら卒倒しちゃったよ。
あはは。
これからも、あの手この手で辺境伯の胃にダメージを与えつつ、夜伽を回避し続けるつもりだ。
が、いつまで持つか。
あまり無茶をすると、連帯責任でクローネさんまで友愛ポイントを下げられちゃうし。
◇ ◆ ◇ ◆
「じゃ掘りますんで、離れてくださーい!」
「「「「「は~い!」」」」」
北の畑の一角で、鉄神の拡声器を使って野次馬に次げると、元気の良い返事が返ってきた。
「あと、気になるのは分かりますけど、みなさん仕事してくださいね~」
「「「「「は、は~い……」」」」」
あはは。村人さんたち、尻尾丸めてら。
まったく、調子いいなぁ。
でもまぁ、十年以上解決しなかった井戸問題が解消するかもしれない瞬間を見届けたいって気持ちは、とっても良く分かる。
鉄神に搭乗している私は、
>dig
とコマンド入力。穴掘りモードだ。
深く深く、ひたすら深く真下へ掘っていく。
掘って掘って掘って、鉄神の腕力に任せてどばーーーーっと土を外に放り投げて。
掘れども掘れども水は出てこない。
仕方ない。この穴が井戸として実用できるかは度外視して、水脈がどの辺りにあるかを知るためにも、水が出るまで掘り進めよう。
>dig
>dig
>dig
>dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig >dig……
数十分ほども経ち、何百メートル? その倍? いや、もっと?
訳分からないくらい掘った、そのとき。
――ズゴゴゴゴゴゴ……ドッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
穴の底が割れ、とてつもない量の水が噴出してきた!!
圧倒的水圧で鉄神の体を押し上げる。
鉄神が地上へ放り出された。
冗談みたいな水量。
しかも何か、ホカホカしてる。
「え、これ……お、お、お、温泉だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」