『愛沢部長は!? 愛沢部長は、まだ見つからないの!?』

 神龍帝・紅玉。
 ルビー。
 Ruby on Rails!!

 ビンゴだ。
 シン帝国の皇帝は、愛沢部長に追い詰められて自殺した朝子さんという方だ!
 転生した順番がまちまちなのが気になるが、そんなのは今さらだろう。
 私とソラさんの間には数百年の開きがあったし、そもそも私、愛沢より先に死んでるし。

「カ、カナリア君」私の声は震えている。「シンの皇帝と通話することって、可能?」

「可能だよ」

「さっすがカナリア君!」

 カナリア君の手の上に、原始的なマイクと聴音機が手渡される。
 あぁなるほど。
 これが、カナリア君がシン帝国内で見てきた電話の形なのね。

「じゃあ、カナリア君」

「うん。繋げるね」

『愛沢部長は見つかったの!?』

 ガラガラ、ゲコゲコとした声。
 龍人族と言うくらいだから、竜かトカゲのような外見なんだろう、きっと。

「見つかりましたよ」

『……お前は、誰だ。なぜ、この秘匿回線を知っている?』

「私は■■工業株式会社 総務部 情報システム課の――」

 電話の向こうで息を飲む音が、聴こえた。

「■■■■と申します。朝子様のお電話でよろしかったでしょうか」

『転生者!?』

「はい、シン帝国皇帝・紅玉陛下。私は貴女が攻めているモンティ・パイソン帝国の皇帝エクセルシア = ビジュアルベーシック = フォン = バルルワ = フォートロン = ト = ブ = モンティ・パイソンです。愛沢部長は確かに、我が国におります」

 厳密にはバルルワ = フォートロン辺境伯領に、だけど。

『あぁ、あぁ、本当にいた! この世界に生れ落ちてからずっと、あの人の魂の鼓動を感じ続けていたから』

「言うて愛沢部長がフォートロン辺境伯家に生まれたのは5、60年前のことで、貴女が戦争を仕掛けてきた数百年前にはまだ、生まれていなかったのですが」

『あら、そうなの? でももう、そんなことはどうでもいいわ!』

 めちゃくちゃな人だな。

「っていうか愛沢部長探してるだけなら、何も征服しなくてもいいじゃないですか」

『アナタそれ本気で言ってる?』

「はい?」

『まともな戸籍もないようなこの異世界で、他国で人探しなんてできるわけがないじゃない』

「あー……」

 確かに、バルルワ = フォートロン辺境伯領でも従士以外の一般領民は戸籍管理していない。
 だから征服して、戸籍制度敷いてやろうって?
 一瞬納得しかけたけど、やってることがめちゃくちゃだ。
 それに、

「いやいやいや、それで愛沢部長が死んだらどうするんですか」

『大丈夫。あの人は絶対に死なないわ』

 ……なんだろう。
 この人は、ヤバい。
 深入りはしない方が良さそうだ。

「愛沢部長の身柄を引き渡す用意が、こちらにはあります。だから」私は、言った。「停戦しませんか?」




   ◇   ◆   ◇   ◆




 数日後。
 全ての戦闘が終了したマジノ線に、身長数メートルのトカゲの集団が現れた。
 中でも異彩を放つ、ビッグマムみたいな見た目をした10メートル近いトカゲが、

「愛沢部長! 愛沢部長はどこなの!?」

 挨拶もなしにわめきはじめた。

「こちらに」

「ヒッ!?」

 私は、後ろ手に縛られた愛沢を紅玉皇帝の前に押し出す。

「あぁ、愛沢部長!」

 紅玉皇帝が触手みたいに長い舌を出して、愛沢の体を吊るし上げる。

「ヒィイイイイイイッ! 助けてくれ!」

「あぁ、あぁ、こんなに怖がっていて、可愛そうに。でも、もう大丈夫」愛沢を舌で吊るしながら、器用に喋る紅玉皇帝。「私が一生愛してあげるから。ほら、貴方のために不老不死の秘薬も用意したのよ。貴方を愛せるのは私だけなの。だからもう二度と、私のことを嫌いだなんて言わないでちょうだい」

 自殺って、そっちの理由で自殺したんかーい!!
 はー、もういいよ。
 末永くお幸せに。

「あぁ、それと■■さん」

「はい?」

「この国、あげるわ。私はもう、目的を達成したから」

「…………はい?」

「今日から貴女が、シン帝国の皇帝よ。私は引退して、愛沢部長と愛の巣を作るの」

 ざざっと私にひざまずく、トカゲ人間――シン帝国の重鎮たち。

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」