「ところでソラさん」

 例の不思議空間で、全国の国境警備隊からかき集めた旧式兵器のプログラム改修をやりながら、私は始皇帝ソラに尋ねる。

「シン帝国の皇帝は代々龍使いだって言ってましたけど」

「言ってないよ」

 ん?

「龍使いとは言ったが、代々とは言っていない。アレは龍人族で、恐ろしく長寿なんだ」

「ほぅ」

「私が国を興したころから、ずーーーーっと神龍帝・紅玉というヤツが治めている」

「へー」

 紅玉。
 ルビーね。
 Ruby on Rails、なんつって。

 Railsはスタートアップ期のTwitterにも使われた、超有名で優秀なプログラミング言語だ。
 より厳密に言えば、プログラミング言語ではなくフレームワークだけど。

「シン帝国はなぜ攻めてくるんですか?」

「それが、未だによく分からないんだよねぇ」

「をいをい」

「いや、だって」ソラさん、やれやれって感じのポーズをとって、「何度軍使を送っても、殺しやがるんだよ?」

「軍使を、殺す!?」

 それ、国として絶対にやっちゃいけないやつ。
『お前の国が絶滅するまで戦い続けるぞ』という最大級の宣戦布告行為。
 だからこうして、独ソ戦や太平洋戦争ばりの全滅戦争やってんのか。

「だから、あいつらとの対話は無理。こっちはマジノ線でひたすら防御し続けるしかないのさ。打って出るにも四龍が強過ぎるしねぇ」

「なるほどです」




   ◇   ◆   ◇   ◆




 というわけで再び、プログラミング戦争開始。
 私は前線に投入された旧式兵器たちの中にもぐり込み、実践(実戦)しながらプログラム改修を加えていく。

 ……とは言え、一生こうやって戦い続けてるわけにもいかない。
 私には、カナリア君と甘々な結婚生活をするという使命があるのだ!
 そういえば、カナリア君は?




「呼んだ、お姉ちゃん?」




「うおっ」

 いきなり声がしたかと思うと、私はいつものナゾ空間にいて、そこにカナリア君もいた!

「まさか、ソラさんの試験、クリアしたの!?」

「うん」カナリア君が微笑む。「何て言うかコレ、すごいね。今ならお姉ちゃんにも負けない気がするよ」

「生意気言いやがってこのこの~! うりゃうりゃ!」

「きゃ~っ」

 って、こんなことしてる場合じゃなかった。

「じゃ、僕はシン帝国の通信傍受をしてくるよ」

 何やら1段階大人びてしまったカナリア君が、とんでもないことを言い出した。

「もぐってくる」

「シン帝国もこっちと同じくらい進んでるの!? っていうか何で分かったの?」

「今、早期警戒機の電波受信プログラムを改修した。シン帝国には、原始的な無線通信までは存在しているよ」

 ということは、1900年代の日本。
 日露戦争当時くらいの技術レベルか。
 っていうか早期警戒機を改修したって言った!?
 マ、マジに私よりスキルレベル高いじゃん……。

 もしかして私、未来の魔王的存在を覚醒させてしまったのでは?
『アイ・アム・ユア・ファーザー……』とか言い出さないように、しっかりと愛してあげよう。

「お姉ちゃん、情報欲しがってたんでしょ? 行ってくるね」

 シュンっと姿を消したカナリア君。
 少し、いやかなり不安だが……任せるしかないだろう。




   ◇   ◆   ◇   ◆




 長い長い、戦いの日々だ。
 次々と投入される四龍。
 大急ぎで兵器工場を回し、全国の型落ち兵器をかき集めながら、何とかかんとかマジノ線を守り続けて1ヵ月。

「分かったよ、お姉ちゃん!」

 私の前に、カナリア君が現れた!

「シン帝国の目的!」

「ぐぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっじょぶカナリア君! 愛してる!」

「僕も! それでね」

 カナリア君の手の上に、無線型イヤホンのようなものが生成される。
 私はそれを、自分の耳に突っ込む。

「「「「「$W#$&vaelijeh;q2335!#456g:poj(‘#$5;:oljkmsbrep:o=~;nkcjh;ldkjfa%$&$-21!”#f:dp;ojsgr:);&(+GUO5$W#$&vaelijeh;q2335!#456g:poj(‘#$5;:oljkmsbrep:o=~;nkcjh;ldkjfa%$&$-21!”#f:dp;ojsgr:);&(+GUO5」」」」

 ぎゅっと圧縮された音声データが、私の脳ミソに詰め込まれた。
 その中で、神龍帝・紅玉の発言とされる一言が、私の心臓を鷲づかみにした。




『愛沢部長は!? 愛沢部長は、まだ見つからないの!?』




   ◇   ◆   ◇   ◆




 次回、最終回。