【Side カナリア】
お姉ちゃんが、モンティ・パイソン帝国に攫われてしまった!
「お姉ちゃん……」
あの日からもうすぐ1ヵ月になる。
相変わらず、お姉ちゃんは戻ってこない。
ボクは鉄神M4でお姉ちゃんを連れ戻そうと考えた。
けれど父上から、『それはさすがに許可できない』と言われた。
相手の出方を見極める必要がある、とか……何だか難しい話をされた。
こちらから鉄神で攻め込んだら、いよいよ戦争になるかもしれない。
理由は分からないけど、帝国がお姉ちゃんだけを連れていき、それ以上のものを王国に要求しないのならば、様子を見るしかないのだと。
ボクは父上に、『お前がエクセルシアを守れ』と言ったじゃないか、と言った。
そうしたら父上は、『すまない』とだけ言った。
ボクは父上を恨んだ。
けれど、父上の本当につらそうな顔を見ると、もう本当に、どうしようもないのだと悟った。
「「「「「一人はみんなのために、みんなは一人のために」」」」」
「まただ」
ボクはバルルワ村の自室から、窓の外を見る。
すると、『友愛』と書かれたハチマキをした連中が、街を我が物顔で歩いているのが見えた。
最近増えた、ナゾの連中だ。
フォートロンブルクで生まれた気味の悪い集団で、
『友だちを愛せ』
『手を取り合おう』
なんて言うクセに、獣人に対しては『人間以外は愛するべきではない』とか言って差別する、ナゾの集団。
温泉郷で、彼らの思想を書き連ねた紙を配ったり、温泉郷の従業員――つまり獣人――とトラブルを起こしたりして、ヴァルキリエが神経を尖らせている。
ヤツらの所為で、温泉郷の雰囲気はすっかり悪くなってしまった。
「村の中にまで入り込んでくるなんて……」
◇ ◆ ◇ ◆
状況は日に日に悪くなっていった。
ハチマキをした連中は当然の顔をして村中をうろつくようになり、村の畑や倉庫を荒すようになり始めた。
村人が抗議すると、
『なんて人情のないヤツだ』
『友愛精神を理解できないケモノ』
と言い返してきた。
ヴァルキリエは何度も兵を動かして、連中を追い出そうとした。
けれど剣を向けると、ヤツら涙を流して土下座するからタチが悪い。
しかも、無理やり立たせようものなら『殺されるー!』って温泉郷にまで届くほどの大声で叫ぶ。
その所為で温泉郷でも『領軍は友愛の連中を殺し回っているらしい』なんて根も葉もないウワサが流れ始めている。
まさか本当に殺すわけにもいかず、ヴァルキリエはどうすれば良いか分からなくなっているようだ。
こんなとき、お姉ちゃんならどうするのだろう?
「お姉ちゃん……」
◇ ◆ ◇ ◆
犯人が分かった!
『友愛』集団のトップのことだ。
コボル男爵!
あの、お姉ちゃんが離婚した、気味の悪い元辺境伯が友愛集団のトップだった。
いや、集団からは『教祖』と呼ばれているらしい。
友愛の連中は今やバルルワ村の人口よりも増えてしまっていて、村人を追い出して勝手に家に住み着いたりしている。
昨日なんて、この屋敷の厨房で勝手にご飯を漁っていて死ぬほど驚いた。
ヴァルキリエからは、僕は部屋に隠れているように、と。
絶対にカギを開けてはいけないと言われた。
◇ ◆ ◇ ◆
その日は、朝から外が物々しい雰囲気で満ちていた。
『友愛』の連中が村のスキはクワで武装して、屋敷を包囲していたんだ。
「一人はみんなのために! みんなは一人のために!」
「友だちを愛せ! 愛さないものには死を!」
「村の豊かさをフォートロンブルクに還元しないバルルワ村は、友愛を理解しないケモノの村だ! 悪魔たちの巣窟だ!」
「悪魔に死を!」
「「「「「死を! 死を! 死を!」」」」」
連中が、屋敷の中に雪崩れ込んできた!
ヴァルキリエは結局最後の最後まで、連中を武力で制圧するという手段を取ることができなかった。
屋敷は破壊された。
徹底的に破壊され、僕は屋敷から引きずり出されて、まるで魔女裁判の後の魔女のように、火あぶりにされた。
…………今。
ボクは今、教会の中庭で木にくくりつけられている。
足元からは炎と煙が舞い上がっていて、炎は遠からずボクの足を焼き、体を焼き、ボクを殺してしまうだろう。
「あぁ、お姉ちゃん……お姉ちゃん!」
最後に、エクセルシアの顔が見たかった――
『やめろぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
懐かしい声を聴いた。
お姉ちゃんの声だ!
「お姉ちゃん!?」
ぱっと顔を上げた。
その視線の先に、陸戦鉄神がいた。
何もいなかったはずの空間から、急に現れた。
鉄神の頭上に魔法陣が展開された。
とたん、土砂降りの雨が広場を満たし、ボクらをあぶる炎が消えた。
雨が止むと同時、お姉ちゃんが乗っているらしき鉄神が、猛然と動き出す。
ドカッ、バキッ、ベキャッ
鉄神が『友愛』の連中を次々と殴り飛ばしていく。
友愛の連中が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
お姉ちゃんはそんな連中を追いかけ、執拗に、丁寧に殴り飛ばしていく。
ものすごい勢いで殴ってるけど……どうやら死人は出ていないらしい。
『カナリア君!?』
全員を殴り飛ばした後、お姉ちゃんが戻ってきた。
鉄神の巨大な手と、装備のナイフで器用に縄を切ってくれて、ボクを優しく下ろしてくれた。
ヴァルキリエたちも順に下ろされる。
そうして、
――プシュー
ひざまずいた鉄神のハッチが開き、お姉ちゃんが飛び降りてきた!
「お姉ちゃん!」
「あぁ、あぁ、カナリア君! 良かった。本当に良かった!!」
「お姉ちゃん……痛っ、いたたた!」
お姉ちゃんが、ボクをものすごい力で抱きしめている。
「……許さない。もう、絶対に許さない!!」
耳元で、お姉ちゃんが叫んでいる。
ぞっとするほどの、深い深い恨みのこもった声だ。
「どこだ愛沢!! 出てこい!!!!」
お姉ちゃんが、モンティ・パイソン帝国に攫われてしまった!
「お姉ちゃん……」
あの日からもうすぐ1ヵ月になる。
相変わらず、お姉ちゃんは戻ってこない。
ボクは鉄神M4でお姉ちゃんを連れ戻そうと考えた。
けれど父上から、『それはさすがに許可できない』と言われた。
相手の出方を見極める必要がある、とか……何だか難しい話をされた。
こちらから鉄神で攻め込んだら、いよいよ戦争になるかもしれない。
理由は分からないけど、帝国がお姉ちゃんだけを連れていき、それ以上のものを王国に要求しないのならば、様子を見るしかないのだと。
ボクは父上に、『お前がエクセルシアを守れ』と言ったじゃないか、と言った。
そうしたら父上は、『すまない』とだけ言った。
ボクは父上を恨んだ。
けれど、父上の本当につらそうな顔を見ると、もう本当に、どうしようもないのだと悟った。
「「「「「一人はみんなのために、みんなは一人のために」」」」」
「まただ」
ボクはバルルワ村の自室から、窓の外を見る。
すると、『友愛』と書かれたハチマキをした連中が、街を我が物顔で歩いているのが見えた。
最近増えた、ナゾの連中だ。
フォートロンブルクで生まれた気味の悪い集団で、
『友だちを愛せ』
『手を取り合おう』
なんて言うクセに、獣人に対しては『人間以外は愛するべきではない』とか言って差別する、ナゾの集団。
温泉郷で、彼らの思想を書き連ねた紙を配ったり、温泉郷の従業員――つまり獣人――とトラブルを起こしたりして、ヴァルキリエが神経を尖らせている。
ヤツらの所為で、温泉郷の雰囲気はすっかり悪くなってしまった。
「村の中にまで入り込んでくるなんて……」
◇ ◆ ◇ ◆
状況は日に日に悪くなっていった。
ハチマキをした連中は当然の顔をして村中をうろつくようになり、村の畑や倉庫を荒すようになり始めた。
村人が抗議すると、
『なんて人情のないヤツだ』
『友愛精神を理解できないケモノ』
と言い返してきた。
ヴァルキリエは何度も兵を動かして、連中を追い出そうとした。
けれど剣を向けると、ヤツら涙を流して土下座するからタチが悪い。
しかも、無理やり立たせようものなら『殺されるー!』って温泉郷にまで届くほどの大声で叫ぶ。
その所為で温泉郷でも『領軍は友愛の連中を殺し回っているらしい』なんて根も葉もないウワサが流れ始めている。
まさか本当に殺すわけにもいかず、ヴァルキリエはどうすれば良いか分からなくなっているようだ。
こんなとき、お姉ちゃんならどうするのだろう?
「お姉ちゃん……」
◇ ◆ ◇ ◆
犯人が分かった!
『友愛』集団のトップのことだ。
コボル男爵!
あの、お姉ちゃんが離婚した、気味の悪い元辺境伯が友愛集団のトップだった。
いや、集団からは『教祖』と呼ばれているらしい。
友愛の連中は今やバルルワ村の人口よりも増えてしまっていて、村人を追い出して勝手に家に住み着いたりしている。
昨日なんて、この屋敷の厨房で勝手にご飯を漁っていて死ぬほど驚いた。
ヴァルキリエからは、僕は部屋に隠れているように、と。
絶対にカギを開けてはいけないと言われた。
◇ ◆ ◇ ◆
その日は、朝から外が物々しい雰囲気で満ちていた。
『友愛』の連中が村のスキはクワで武装して、屋敷を包囲していたんだ。
「一人はみんなのために! みんなは一人のために!」
「友だちを愛せ! 愛さないものには死を!」
「村の豊かさをフォートロンブルクに還元しないバルルワ村は、友愛を理解しないケモノの村だ! 悪魔たちの巣窟だ!」
「悪魔に死を!」
「「「「「死を! 死を! 死を!」」」」」
連中が、屋敷の中に雪崩れ込んできた!
ヴァルキリエは結局最後の最後まで、連中を武力で制圧するという手段を取ることができなかった。
屋敷は破壊された。
徹底的に破壊され、僕は屋敷から引きずり出されて、まるで魔女裁判の後の魔女のように、火あぶりにされた。
…………今。
ボクは今、教会の中庭で木にくくりつけられている。
足元からは炎と煙が舞い上がっていて、炎は遠からずボクの足を焼き、体を焼き、ボクを殺してしまうだろう。
「あぁ、お姉ちゃん……お姉ちゃん!」
最後に、エクセルシアの顔が見たかった――
『やめろぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
懐かしい声を聴いた。
お姉ちゃんの声だ!
「お姉ちゃん!?」
ぱっと顔を上げた。
その視線の先に、陸戦鉄神がいた。
何もいなかったはずの空間から、急に現れた。
鉄神の頭上に魔法陣が展開された。
とたん、土砂降りの雨が広場を満たし、ボクらをあぶる炎が消えた。
雨が止むと同時、お姉ちゃんが乗っているらしき鉄神が、猛然と動き出す。
ドカッ、バキッ、ベキャッ
鉄神が『友愛』の連中を次々と殴り飛ばしていく。
友愛の連中が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
お姉ちゃんはそんな連中を追いかけ、執拗に、丁寧に殴り飛ばしていく。
ものすごい勢いで殴ってるけど……どうやら死人は出ていないらしい。
『カナリア君!?』
全員を殴り飛ばした後、お姉ちゃんが戻ってきた。
鉄神の巨大な手と、装備のナイフで器用に縄を切ってくれて、ボクを優しく下ろしてくれた。
ヴァルキリエたちも順に下ろされる。
そうして、
――プシュー
ひざまずいた鉄神のハッチが開き、お姉ちゃんが飛び降りてきた!
「お姉ちゃん!」
「あぁ、あぁ、カナリア君! 良かった。本当に良かった!!」
「お姉ちゃん……痛っ、いたたた!」
お姉ちゃんが、ボクをものすごい力で抱きしめている。
「……許さない。もう、絶対に許さない!!」
耳元で、お姉ちゃんが叫んでいる。
ぞっとするほどの、深い深い恨みのこもった声だ。
「どこだ愛沢!! 出てこい!!!!」