柚香ちゃんはその墓石の上に霞草(かすみそう)と桜の枝を束ねた花束を静かに供えた。それは、電車に乗る前に花屋で買ったものだ。遺書の封筒が桜の花びらのような儚い色をしていたことや、「春霞の奥に連れて行かれてもいい」と綴られた言葉を思い出しながら選んだ組み合わせだった。
「いじめたりして、本当にすいませんでした!」
 柚香ちゃんはその場で勢いよく地面に手をつき、まるで罪を償うかのように土下座をした。頭を深く下げる姿からは、過去への後悔と謝罪の気持ちが痛いほどに伝わってきた。
「そんなことしなくても、許してくれるよ。僕も許すし、手が痛いだろ?」
 櫂冬くんは、突然の光景に戸惑いながらも優しく柚香ちゃんに手を差し伸べ、彼女をそっと立ち上がらせた。
「だってここまでしないと、あたしの気が済まないんだもん!」
 柚香ちゃんは頬をぷくっと膨らませ、まるで子どものように意地を張り、感情をぶつけていた。その表情には、謝罪だけでは片付けられない複雑な思いが隠されているように見えた。
「わかった、わかったから落ちつけ」
 そんな彼女を櫂冬くんはどうどうと手で制しなだめた。
「はいはい。そういえば、虹七ちゃんのお父さんってすごいね。あたし、あこがれちゃう!支援学級の先生とか目指そっかな」
 その櫂冬くんの言葉を軽く受け流すように、柚香ちゃんは話題をあっさりと変え、さらには楽しげに鼻歌まで歌い出した。その姿は、まるでさっきまでの緊張感を打ち消すかのように、場の雰囲気を軽やかに変えていった。
「柚香ならなれるよ!僕、応援する。自分の進路はそのうち決める」
 櫂冬くんはそんな柚香の背中を押している。
「じゃあさ、まずはこのこと合作にしようぜ」
 それを聞いた椋翔が提案してきた。
「合作?」
「榎さんがプロット作って、それを3人で書くとこ分担するんだよ」
 椋翔は当然のように言ってのけている。
「え、私書いたことないんだけど」
「僕はバカだからバカな文章しか書けねぇって」 
 衝撃の提案に私と櫂冬くんは目を白黒させた。しかし、柚香ちゃんは待ってましたと言わんばかりにプロットを渡してくる。
「書くことと言ったらこれしか思いつかなくてさ、気づいたら作ってた」
「これ……私が書くとこ1番多いじゃん。量一緒にしてよ。不公平だよ」 
「仕方ないじゃん!途中から椋翔くんは消えたりするし、櫂冬はバカだし、主人公は虹七ちゃんにするしかないじゃん!」
「えー」
 呆然と返しながらもプロットを見つめていると、ぽんっと頭の中から言葉が出てくる。
「タイトルこれにしない?」
「へっ?」
「――」                       完