ああそんな、誰からも嫌われていじめられてるような俺に会いたがってる人なんているわけない。いたらびっくりぐらいな話だ。
 きっと会いたいと思っていい資格すらない。でも会えずにはいられない。

 そういえば春のクラス替えのとき、クラス分けにされた全員の名前が記載された紙を渡されたことがあった。そこからならわかるに違いない。

 連絡関連の紙を入れるファイルは、これまで一度も整理したことがない。1枚も捨てずにそのまま残していたが、結果的にそれが幸いしたように思える。しかし実際のところ、ただどうでもいいと放置していただけに過ぎなかった。

 家の自分の部屋で、一枚一枚のプリントを確認していく。受験生であることすら忘れ、俺は必死になってその山を整理していた。

「あった!」

 一組から順に目を通していった。そもそも、「紅」という苗字は非常に珍しい。今まで見たことも、聞いたこともない苗字だったせいか、それはすぐに目に留まった。同じ苗字の者は他におらず、この人物に間違いないと確信が胸に広がる。
 でも名前の漢字がわかったとしても、容姿がわかったわけでもないし、見つけれるわけがない。

 どうしよう。既に探し始めてから1ヶ月が経過していた。途方に暮れながらも昼休みに校内を走り回り、行ってないところを探してみる。音楽室に理科室、視聴覚室に保健室。そして、図書室。

 入学してから自分の意志で入るのは初めてだ。授業の一環で先生の誘導のもと、そこにクラス全員で訪れることはあったが。

 そこには無数の本が取り囲むように並んでいて、数人の人が本を探したりしていた。その横には読書スペースといって長机と椅子がいくつもある。その中にひとり目を引く人がいた。 

 墨で塗りつぶされたような髪に渋い紫色のヘッドフォンのようなものをかけ、凛とした姿でひたすらノートにペンを走らせている彼はイケメンでしかなかった。

 僕の栗色の髪にあがり眉に大きな口という強気そうなイメージしか受けなさそうな顔とは全く違って、その濃い茶色みたいなビー玉の目には一瞬で目を奪われた。