そもそも僕の学年は3クラスあり、生徒が110人ぐらいいる。その中から容姿も知らない生徒を探すなんて、大変なことだ。まぁでも弟なんだから、錦奈と似た容姿の男子を探せばいい。

 その上、両耳を押さえていたことで保健室に連れて行かれた。そのとき教室で何が起きたのか。何か大きな音でも鳴ったのだろうか。音の近さにもよるかもしれないけど、先生が心配するほどずっと両耳を塞いでいた。それはおかしいと思う。

 だから気が気でなかったんだ。
 傍から見れば昨日会って少し話ただけの赤の他人。探す必要も関わる必要もないと割り切る人もいるかもしれない。でも俺は既に錦奈のことが好きになってしまっていた。そう、一目惚れだ。

 まず周りを見渡し、クラスメイトの中にそれらしい人がいないか探す。自分の机には『死ね』や『サイテー』といった悪口が埋め尽くすように書き殴られていたが、気にする余裕すらなかった。

 でも実際、男子と女子じゃ全然見た目が違うわけで、これは気が遠くなりそうだなと思った。 授業の合間の休み時間に廊下を歩いて隣のクラスを覗いてみたり、学年合同で授業を受けるときにもキョロキョロしたりした。必死に探した。でもそれらしき人は見つかっても頭の中ではピンとこないことが多かった。

 本当にこの学年にいるのだろうか。その椋翔という人は。でも先生に直接聞くのもためらわれる。

 それより問題は錦奈が俺に会いたがってるかどうかだ。会いたいと言っても会いたくない人と会うのは嫌だろう。俺だって嫌だ。今やスポーツ万能なところを見せてもすごいと褒めてくれる人は誰一人としていない。

「あれ、完全に見せつけてるわ」
「特に全国大会とか行けてないのに、よくあんな偉そうになれるよね」

 クラスメイトからはそんな悪口が聞こえ、嘲笑うようにクスクスしていた。僕の目の前でヒソヒソ話してくるやつらもいたっけ。
 完全に蚊帳の外で、いつもの話し声や笑い声が段々全部僕の悪口に聞こえてきて、耳を塞ぎたいと何度も思ったか。