かばってくれたり、なぐさめてくれたり、はげましてくれるやつは誰もいなかった。
 どうして僕が少しスポーツ万能なことに自慢癖があるだけでこんなことされなくちゃいけないんだ。つらくて、悔しくて、何度泣いたか。消えたい、死にたいと何度思ったか。
 
 でもあいつだけは違った。
 噂だけは聞いていた。僕とはひとつ学年が上で週に2、3回忘れ物や遅刻をするとか。初対面はアメリカ人みたいにコミュニケーションが高かったのに、次第に避けられたりいじめられたり嫌われているとかって。
 
 中学3年生の夏。泣いているみじめな僕をあいつだけが話相手になってくれた。僕のどうしようもない心の叫びをあいつだけが代わりに叫んでくれたみたいだった。

 最初は暗がりに包まれた廊下に凄まじい足音だけが響いていた。なにか一大事でも起こっていて、そこに駆けつける途中みたいにあいつは大慌てだった。

「大丈夫?ティッシュいる?あ、お茶とかどう?」

 そう声をかけられた時、僕は膝を抱えてうずくまっていて、顔をよく見ようともしていなかった。

「急いでるんだろ、いけよ」

 わずかな希望と信じられない気持ちが心の中に同居していて顔を上げられなかったんだ。

「えっと、なにしてたんだっけ?どうしてここにいるんだっけ?」

 息がとまるかと思った。急いでいたのにまるでその理由を忘れていたかのような声だった。
 
 驚きのあまりばっと顔を上げる。そして目にとらえたのはどこからどう見ても紛れもない美女だった。