「絶交取り消します。この際、先輩とか後輩とか関係なくタメ口でいいですか?」
 
 そもそも距離を感じてはいた。柚香ちゃんとはタメ口でまぁそれはカノジョなんだから当たり前かもしれないけど、私だけ敬語って変な感じはした。
 
「いいよ」
 敬語で接されるほど偉い人でもないし。
「ありがとな、本当に昨日は悪かった。僕がどうかしてた」
「いや、いいよ。元々私が悪いみたいだし」
「いやいや、勝手に悪いって決めつけて責めたし、全然話聞けてないし」

 櫂冬くんは申し訳なさそうにあがり眉を下げていた。

「詳しい話、きかせてくれる?」
「私の過去の話なんだけど」
 
 さすがに櫂冬くんを前にすると、口を開くのがためらわれる。椋翔くんの時とは全く違う感覚だ。

「ああ、それなら話しにくいよな……でもやっぱり、そこに椋翔が離れていった理由があったのかもしんないし」

 そうかもしれない。そう自分に言い聞かせながら、私は思い切って過去のことを話し始める。言葉が唇から零れ落ちるたびに、心の奥にしまっていた記憶が蘇った。2度目の告白。最初のときとは違う重みがそこにはあった。過去に向き合うたび、心の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じる。それでも、言わなければならない。そこに理由があるのなら。

 櫂冬くんは静かに床にしいておいたラグに座り、私の話に耳を傾けてくれていた。その姿に、配慮が伝わってくる。当たり前のように見えるその距離感も、柚香のことを気にかけてのことだとすぐにわかった。その慎重さと優しさが、言葉にできない重みを持って私の心に響いてくる。

 やはり、つらい過去を口にするたび、涙がこみ上げてくる。それが誰であろうと、たとえ二度目であっても、心の痛みは消えない。