「主な原因は発達障害とか精神的なストレスだな。他にもあるけど今は置いとく。とにかく父さんの科にはそういう人が多いんだ」

 そう言いながら父さんはパソコンをパタリと閉じた。
 
「発達障害?」
 
 その言葉は重いもののような気がした。 
 害ということはなんかの病名だろうか。
 
「生まれつきの脳の特性だよ。病気じゃない、治らないものなんだ。まぁ、これは椋翔くんには関係ない。あるのは精神的なストレスの方だ。心を開いてくれないし、その子の母さんに聞いてみてもわからない。どういう精神的なストレスなのかが」

 頭を抱えているような仕草をして父さんは言った。

「それって、治るの?」

 死んだりとかしないよね?
椋翔くんのことが大嫌いなはずなのに気づけば私は問いかけていた。

「精神的なストレスの場合は治ることがあるんだ。だが今のままでは難しい。椋翔くんはたぶん、ひとりでは到底背負えきれないものを抱えているんだよ。もしそいつの心を開けれたらその時、父さんはまた前を向いて生きていけると思う」 

 そうなんだ。道理で簡単には踏み込ませない感じがあるわけだ。わかりやすいな、椋翔くんは。

「そういえば、その椋翔くんを助けてほしいとか頼んでくる人がいたな」
 
 ふと思い出したように父さんは言った。それって、丘先生や櫂冬くんだったりして。

「患者の顔と名前がごっちゃになることもあるし、すぐ事故で亡くなったらしいから覚えてないんだけどな。まぁいくら人を診ていても母さんや弟が戻ってくることはないけどな」
「相変わらずだね、父さん」
 
 互いに顔を見てクスリと笑い合う。父さんとこんなに話したのは何年ぶりだろう。いつもとは一味も二味も違う顔だった。あれが精神科医としての父さんの顔なのだろう。

 私にあんな椋翔くんが助けられるのかはまだわからない。信じてない。友人からも先生からも呆れられた私に何ができるのだろうか。

 でも助けてほしいと父さんの顔と声が言っている。その椋翔くんが苦痛の中でも小説を書いている。私にはなんの夢もなくて、ただ羨ましい限りであった。