「そういえば……久しぶりに声出した。耳がおかしくなってからというもの……自分の声すらも聞くのいやになってたから」
「……そうだったんだ」 
 だからこそ筆談で話そうとしていたのか。何もかも過剰に音を拾ってしまってそれが苦痛で図書室登校をしている理由も私達にも声は出さず筆談を強要してきた理由も頷けてくる。
「起き上がれるか?」
 椋翔がこちらに手を差し出してくれた。その上に疲労骨折してない方の手を乗せると、ゆっくり引っ張ってくれて体を起こすことができた。
「やっと呼び捨てに……してくれたな。俺、嬉しい」
 繋いでいた手に力を込めながら椋翔は言った。その顔は口角が上がっていてクスリと笑い声が漏れている。彼の声を出すところも笑顔も今初めてしっかりと目にした気がする。
「よかった……錦奈さんなんでしょ?椋翔の本当のお姉さん」
「ああ、そうだ……もしかして、柳から聞いた?」
「うん、知らなくてごめんね。だから私を避けたんでしょ?」
「いや、違う……違うんだ」
「へっ……!」
 思いもしなかった返答に椋翔の胸に預けていた顔を上げる。すると彼の真剣な眼差しが私の目を射抜くように見てきた。
「全部……話すよ。長くなるだろうけど。俺がずっと、閉じ込めてた……叫びを」
 そして、大きく頷いた。