翌日も私は保健室で漠然と過ごしていた。昼休みまで誰も訪れることはなく、ただひとりぼっちで。

 ガラガラッ!

 その静寂を忽然と断ち切るように引き戸の音が勢いよく鳴った。凄まじく速い足音が、一瞬にして緊迫とした空間を作り出す。

「何をしたの?」

 カーテンがバサッと激しく開けられ、責めたてるような言葉が胸を突き刺した。

 目の前にいたのは険しい顔をした、柚香ちゃんだった。その後には櫂冬くんと丘先生も立っている。ふたりとも蔑むような目で睨んできていた。
 
「えっと……どういうこと?」

 よくわからない。現状が掴めなくて。
 ただ何かが壊れるような音が遠くから聞こえた気がした。
 
「しらばくれないで!」

 柚香ちゃんはそう怒鳴って私の頰をバシン!と叩いてきた。頭から冷水を浴びせられたような衝撃に襲われる。

「やめて、一応ケガ人よ」

 丘先生は両腕を組んでご機嫌斜めであった。庇われているのか否か、それすらもよくわからない。

「だって許せませんよ!絶対に」

 柚香ちゃんは強く拳を握りしめている。爪が皮膚に食い込みそうなくらいに。

「そうね、先生も気に入らないわ」
「僕も裏切られた気分だ!」

 チンプンカンプンな中、冷徹な言葉が次々と心を刺していく。
 
「あたしはせっかくプロットを書いたのに、椋翔くんは来てなかった!」
 
 たぶん、図書室にいなかったのだろう。いや、そんなわけない。椋翔くんは最初から静かな場所を好んでいる感じがあったし。そこでずっと小説を書いていたし。
 
「それで家に電話したの。母親が出たの。『もう誰とも筆談すらしたくない』と椋翔くんがメモ帳に書いてたって言ってきたの」