そのあと父さんと心温さんが迎えにきた。父さんはなぜか目を見開いていた。普段は暗い顔ばかりを私には見せるのにそれは印象的でしかなかった。

 翌日。車で送ってもらい、父さんに担がれ保健室へ。誰もいない中、骨が折れたんじゃないんかと思うぐらいの痛みに悶える。

 一応本は近くにある。けれど「安静にしててね」と丘先生には言われた。だから普通に眠るのが1番いいのだろう。
 
 そうとわかっていても、眠気は都合よく襲ってきてくれたりしない。かといって何かをする気力もない。ぼんやりと白い天井を眺めるしかなかった。

 ガラッ。

 そこへ引き戸が開く音がする。丘先生だろうか。でも私に声をかけてくることはない。
無言なまま足音だけは近づいてきて、仕切りにしていたカーテンが少しめくられる。そこから顔を出したのは椋翔くんであった。

「図書室、いたんじゃないの?」

 いつも通り小説を書いていたんじゃないの?

 椋翔くんは側にあった丸イスに腰掛け、メモ帳を開いて書き付ける。
 
『姉貴が隣にいないと集中できねぇ』

 戸惑っていた私の心を見透かしてきたような、その言葉に心臓が早鐘を打った。
 わがままか。まるで私が好きとかって告白してきてるようじゃないか。
 いや、そんなことあるわけない。私なんかに椋翔くんはおろか、誰も惚れたりするわけない。告白なんてされたこともないし。椋翔くんとはただの偽りの姉と弟。それ以上でも、以下でもない。
 
『ほっとけるわけねぇだろ。姉貴がなんでこんな目に合わなきゃいけないんだ。僕許せねぇよ。いじめてきたやつらのこと』

 椋翔くんは私の困惑なんておかまいなしにメモ帳を突きつけてくる。
 まるで本当に血が繋がっている家族のように。

 瞳を見れば、自動的に吸い寄せられる。濃い琥珀色のビー玉みたいなそれは三角になっていて、怒りが伝わってくる。