櫂冬くんの話を聞いている間、周囲は深い静寂に包まれ、まるで時間が止まったかのようだった。彼の語る孤独に満ちた小中時代、その中で巡り合った一瞬の初恋、そしてその後に訪れた柚香との強引な出会い。まさか、あのふたりが共に私を助けようとしていた事実に直面し、私は驚愕せざるを得なかった。
「僕……強気そうにとりつくろってたけど、本当はこうなんだ」
彼の目から溢れ出た涙は、次々と頬を伝い、絶え間なく流れ落ちていた。その姿に、私とは異なるけれども、胸を締めつけるような痛みを感じた。櫂冬くんが受けた残酷な仕打ちと、逃れられない不幸の影が、言葉の端々に滲む。
恋心というものを私は理解していないが、それでも、想いを告げられぬまま終わってしまうことが、どれほど悲しく、切ないことであるかを感じずにはいられなかった。
「つらかったね……それでもわたしを助けようとしてくれて、ありがとう」
もらい泣きしながらも、私は思わず微笑みを浮かべていた。しかし、どこかおかしいと感じる。話に耳を傾けている間、柚香ちゃんはまるで感情を閉ざしたかのように、顔を俯かせたまま一切動かなかった。まるで感情を持たないロボットのように、口元も表情も微動だにせず、何を考えているのか全く掴めなかった。それでも次の瞬間、ぽつりとかすかな声で呟いた。
「別れよう」
柚香ちゃんは、まるで魂を失ったかのように力なく立ち上がり、何も言わずに部屋を出ようとした。
「ま、待てよ!」
櫂冬くんは、震える声でそう叫びながら、涙に濡れた手で彼女の手首を掴み、必死に引き止めた。その姿は、まるで彼女との繋がりを失うことを恐れ、すがりつくようだった。
「やだ!櫂冬も虹七ちゃんも、もうあたしに関わらない方がいいよ。さよなら」
そう言い放つと、柚香ちゃんは彼の手を振り払い、力強く一歩を踏み出し、迷いなく部屋を出て行った。その背中は、何か決意を固めたようであり、もう二度と振り返るつもりはないかのようだった。
なんで?どうして?
その疑問が胸の中で渦巻き、今すぐにでも問い返したい衝動が湧き上がる。しかし、喉は何かに詰まったように言葉を出せず、体もまるで金縛りにあったかのように動かなかった。
それは櫂冬くんも同じで、力を失ったように、ただ頼りなくその場に立ち尽くしていた。
「どういうことだよ、これ……僕また……」
その声は震え、絶望と困惑が交じり合った感情が言葉に乗っていたが、その続きは虚空に消えていく。
「私も、わかんないよ」
何度も自問自答を繰り返してみても、答えは見つからない。まるで、どれを選んでも誤りとなる選択肢ばかりが並ぶ、解けない問題を突きつけられているような感覚だ。考えれば考えるほど、出口のない迷路に迷い込んでしまう。
「僕、なんかしたかな……」
櫂冬くんは深く項垂れ、重い沈黙の中でその場に膝を抱えて座り込んだ。
「思い返してみれば、マジでダメなやつだよな。こんなことになっても仕方ねぇよ」
そして、自己嫌悪の波にさいなまれはじめたように見えた。
受験勉強を手伝ってもらいながらも、あえて強気な自分を演じ、周囲に気を使わせまいとしていた。そして、テニスに夢中になるあまり、私も柚香ちゃんも疲労骨折させてしまったこともあった。それでも、それほどまでに錦奈さんという存在を強く思っていたのだという事実が、心に重くのしかかってくる。
「僕……強気そうにとりつくろってたけど、本当はこうなんだ」
彼の目から溢れ出た涙は、次々と頬を伝い、絶え間なく流れ落ちていた。その姿に、私とは異なるけれども、胸を締めつけるような痛みを感じた。櫂冬くんが受けた残酷な仕打ちと、逃れられない不幸の影が、言葉の端々に滲む。
恋心というものを私は理解していないが、それでも、想いを告げられぬまま終わってしまうことが、どれほど悲しく、切ないことであるかを感じずにはいられなかった。
「つらかったね……それでもわたしを助けようとしてくれて、ありがとう」
もらい泣きしながらも、私は思わず微笑みを浮かべていた。しかし、どこかおかしいと感じる。話に耳を傾けている間、柚香ちゃんはまるで感情を閉ざしたかのように、顔を俯かせたまま一切動かなかった。まるで感情を持たないロボットのように、口元も表情も微動だにせず、何を考えているのか全く掴めなかった。それでも次の瞬間、ぽつりとかすかな声で呟いた。
「別れよう」
柚香ちゃんは、まるで魂を失ったかのように力なく立ち上がり、何も言わずに部屋を出ようとした。
「ま、待てよ!」
櫂冬くんは、震える声でそう叫びながら、涙に濡れた手で彼女の手首を掴み、必死に引き止めた。その姿は、まるで彼女との繋がりを失うことを恐れ、すがりつくようだった。
「やだ!櫂冬も虹七ちゃんも、もうあたしに関わらない方がいいよ。さよなら」
そう言い放つと、柚香ちゃんは彼の手を振り払い、力強く一歩を踏み出し、迷いなく部屋を出て行った。その背中は、何か決意を固めたようであり、もう二度と振り返るつもりはないかのようだった。
なんで?どうして?
その疑問が胸の中で渦巻き、今すぐにでも問い返したい衝動が湧き上がる。しかし、喉は何かに詰まったように言葉を出せず、体もまるで金縛りにあったかのように動かなかった。
それは櫂冬くんも同じで、力を失ったように、ただ頼りなくその場に立ち尽くしていた。
「どういうことだよ、これ……僕また……」
その声は震え、絶望と困惑が交じり合った感情が言葉に乗っていたが、その続きは虚空に消えていく。
「私も、わかんないよ」
何度も自問自答を繰り返してみても、答えは見つからない。まるで、どれを選んでも誤りとなる選択肢ばかりが並ぶ、解けない問題を突きつけられているような感覚だ。考えれば考えるほど、出口のない迷路に迷い込んでしまう。
「僕、なんかしたかな……」
櫂冬くんは深く項垂れ、重い沈黙の中でその場に膝を抱えて座り込んだ。
「思い返してみれば、マジでダメなやつだよな。こんなことになっても仕方ねぇよ」
そして、自己嫌悪の波にさいなまれはじめたように見えた。
受験勉強を手伝ってもらいながらも、あえて強気な自分を演じ、周囲に気を使わせまいとしていた。そして、テニスに夢中になるあまり、私も柚香ちゃんも疲労骨折させてしまったこともあった。それでも、それほどまでに錦奈さんという存在を強く思っていたのだという事実が、心に重くのしかかってくる。