「何をされたか大体想像はつくわ。先生が教育委員会に訴えとくし、いじめてきた人は退学処分か自宅謹慎ね。先生は退学処分を校長にすすめとくわ。保護者にも柚香さん達にも連絡はしてるし。絶対隠蔽なんてさせない」

 丘先生は真剣で、それでいて、怒っている表情をしていた。本当は怒鳴りちらしたいんだろう。ここにはいない、いじめてきた子達を。それを隣に椋翔くんがいるから、必死に我慢している感じだった。
 
「ありがとう……ごさいます」 

 これで終わるんだ。恐怖に侵されることはなくなるんだ。きっと2度と。そう思ったらふっと力が抜けた。

「虹七ちゃーん!!」
「ちょ、待て柚香!」

 入口の方から現れたのは柚香ちゃんと櫂冬くん。特に柚香ちゃんは泣き腫らした目をしている。相当心配してくれていたらしい。

「ふたりとも、声抑えて」

 丘先生は閉じた口に人差し指を当てて注意した。
「あ、すいません」

 それに対し、柚香ちゃんは口に左手を当てている。その横で櫂冬くんは頭をポリポリとかいていた。

 それから柚香ちゃんは額に皺を寄せ、吐き捨てた。

「なんで……あんたが助けたの?」

 その瞳は椋翔くんの方へ向いている。櫂冬くんも表情は同じだった。

 椋翔くんは柚香ちゃんからも櫂冬くんからも丘先生からも嫌われている。そして私も大嫌いだ。

 そんな人が誰かを助けるなんて理由を聞きたくなるのは当然のこと。私だって、聞かずにはいられなかった。

 椋翔くんはメモ帳に書き付ける。その内容はベッドに寝ている私には見えない。だから何を書いているのかはわからない。でもそれを見た柚香ちゃんは言った。

「……あたしまた書くね、プロット」

 その口角は上がっていて、涙の跡が残る目ではあるけれど、確かに笑っていた。