そのあとは天国にいくのだろうか。それとも地獄か。

 幸せな方にいくのはきっと私なんかじゃない。もっと人生でたくさん成功してる人なんだろうな。天と地の差があるくらい。

 そう想った直後、ついに私の意識は途絶えた。


 ただの落とし穴に落ちるよりも、もっと深い穴。地球の反対側まで落ちていっているんじゃないか。たぶん。それぐらい、眠りは深かった。

 遥か遠くにある意識の中、微かな音が聞こえてくる。

 カサカサと誰かが近づいてくる足音。
 ガタリと扉が開く音。
 ガサッと誰かに担がれるような音。
 
 なんだろう。連れて行かれてるのかな。殺されるのかな。それならいいや。それで自分の人生に終止符を打てるのならなんでもいい。殺して。なにもない生き疲れた私を。本望だから。

 誰かの足音が響く。それはコツコツという音に変わる。どこか建物の中に入ったのだろうか。

 冷たい。足に触れてる誰かの手の感触が。保冷剤か、それよりも冷たく感じた。

 引き戸が開く音がして、ゆっくり降ろされる感覚がする。雲の上に乗せられたような柔らかな感触が安らぎを与えてくれた。

 そして、椅子を床に擦り付けて持ってくる音。誰かが座る音。そのあとは静寂が訪れるのみ。

 えっ、殺さないの?殺してよ、そこにいる誰か。

 必死に叫ぶ。でも声にはでずに、虚しくも届かない。水が欲しい金魚みたいに口をパクパクさせることしかできない。

 まさか……。

 嫌な予感がして、ゆっくり瞼を開けてみる。ぼんやりとした視界の中、目はとらえられた。
 
 テクノカットの墨汁で塗りつぶされたような黒髪。濃い琥珀色のビー玉みたいな瞳。頭にかけられたヘッドフォンのようなもの。それは黒いリングにコムラサキの実のように渋めな色のイヤーカップ。

 胸に焼きつけられるように残っている。この特有のあるイケメン。