そしてある日、あの公園に来ていた。錦奈が死んでから既に2ヶ月がすぎ、季節は秋になっていた。先生が受験生だからと急かしてくるも、やる気になれない日々が続いていた。
世界は僕を置いていくようにバカらしく輝いていて、人混みも知らんぷり。消えたい、死にたい。命なんかどうでもいい。汚い感情ばかりが心を埋め尽くしていく。隙間が1ミリもないくらいに。
背負えきれないほどのもの抱えながらも、あの時の錦奈と同じように。俯いてブランコに腰掛けていた、その時だった。
「き、気晴らしにどう?」
それは高めの緊張したような声だった。顔を上げると、タレ目に2つ結の女子が俺にテニスラケットを差し出していた。その焦げ茶色の瞳は泣き腫らしていて、つらそうに見えた。
「今さ……そんな気分じゃないんだ」
人が泣いてる時にテニスラケット差し出してくるやつなんて初めて見た。考えなしか。僕の気持ちも考えてくれよ。初対面だからそんなこと無理なのはわかっている。けれど考えずにはいられなかった。
「ほんとはさ、あたしもそんな気分じゃない」
「は?」
じゃあ、なんで?
「でも気づいたらラケット持ってここにいた。ラリー相手いないから頼みたいの」
なんじゃ、そりゃ。理由らしくない理由だ。バカらしくて笑いが込み上げ、溢れていた涙が止まる。
「せっかくだからさ、ため込んでるやつ押しつぶすように思いっきり打ってよ!あたしも手加減しないから」
「……いいのか?」
そんなことして。目の前にいるのは女子なのに。絶対あとでなんかケガとかになりそうだ。「あたしがそうしたいの!だから持って、あっち立って」
そう言って僕の腕を掴み、強引に立たせてラケットを渡してくる。どうやら退く気はないようだ。
「わっ、わかったよ」
しょうがないなぁ、と思いながらもラケットを持ってある程度距離をとり、構えてみる。
「じゃあ、いくよーえい!」
すると彼女は勢いよくボールをあげて力まかせに打ってきた。テニスボールはあっという間に公園の端まで宝物線を描き、バウンドしていく。公式戦なら完全にアウトなところだ。
「ちょっ、あくまでラリーなんだからコントロールとか気にしてよ」
ため息まじりに後を向いてテニスボールを取りに行く。なんなんだ今日は。と思いながらもそれを見つめた。
「今はそういうのなし!憂さ晴らし、できないでしょ?」
すると後から淡く怒りをはらんだような歯切りのある声が聞こえてくる。その途端、苛立ちが募ったのかラケットを持つ手に力が入る。
「ぼ、僕が本気出したら、ケガするぞ」
「いいの、どーんときて!」
その恐れを知らない声にまた力が入る。
もう、ケガしても知らねぇぞ。
心の中でそう呟き、怒りにまかせて思い切り返す。すると彼女は「その調子その調子!」とやんわり挑発してきた。そしてテニスボールを打ち返してくる。
世界は僕を置いていくようにバカらしく輝いていて、人混みも知らんぷり。消えたい、死にたい。命なんかどうでもいい。汚い感情ばかりが心を埋め尽くしていく。隙間が1ミリもないくらいに。
背負えきれないほどのもの抱えながらも、あの時の錦奈と同じように。俯いてブランコに腰掛けていた、その時だった。
「き、気晴らしにどう?」
それは高めの緊張したような声だった。顔を上げると、タレ目に2つ結の女子が俺にテニスラケットを差し出していた。その焦げ茶色の瞳は泣き腫らしていて、つらそうに見えた。
「今さ……そんな気分じゃないんだ」
人が泣いてる時にテニスラケット差し出してくるやつなんて初めて見た。考えなしか。僕の気持ちも考えてくれよ。初対面だからそんなこと無理なのはわかっている。けれど考えずにはいられなかった。
「ほんとはさ、あたしもそんな気分じゃない」
「は?」
じゃあ、なんで?
「でも気づいたらラケット持ってここにいた。ラリー相手いないから頼みたいの」
なんじゃ、そりゃ。理由らしくない理由だ。バカらしくて笑いが込み上げ、溢れていた涙が止まる。
「せっかくだからさ、ため込んでるやつ押しつぶすように思いっきり打ってよ!あたしも手加減しないから」
「……いいのか?」
そんなことして。目の前にいるのは女子なのに。絶対あとでなんかケガとかになりそうだ。「あたしがそうしたいの!だから持って、あっち立って」
そう言って僕の腕を掴み、強引に立たせてラケットを渡してくる。どうやら退く気はないようだ。
「わっ、わかったよ」
しょうがないなぁ、と思いながらもラケットを持ってある程度距離をとり、構えてみる。
「じゃあ、いくよーえい!」
すると彼女は勢いよくボールをあげて力まかせに打ってきた。テニスボールはあっという間に公園の端まで宝物線を描き、バウンドしていく。公式戦なら完全にアウトなところだ。
「ちょっ、あくまでラリーなんだからコントロールとか気にしてよ」
ため息まじりに後を向いてテニスボールを取りに行く。なんなんだ今日は。と思いながらもそれを見つめた。
「今はそういうのなし!憂さ晴らし、できないでしょ?」
すると後から淡く怒りをはらんだような歯切りのある声が聞こえてくる。その途端、苛立ちが募ったのかラケットを持つ手に力が入る。
「ぼ、僕が本気出したら、ケガするぞ」
「いいの、どーんときて!」
その恐れを知らない声にまた力が入る。
もう、ケガしても知らねぇぞ。
心の中でそう呟き、怒りにまかせて思い切り返す。すると彼女は「その調子その調子!」とやんわり挑発してきた。そしてテニスボールを打ち返してくる。