錦奈の死を知ったのは、公園で会った3日後。担任から「椋翔が伝えたい事がある」と言われ、図書室へと足を踏み入れた。 
 椋翔はいつものようにヘッドフォンのようなものを頭につけ、ノートにペンを滑らせている。どうやらこちらには気づいていないようだ。僕はすぐ近くのメモ帳とペンを取り、文字をつづる。
『話ってなんだ?』
 椋翔はペンを置き、顔を上げる。それはひどく青ざめていて、この世の人間のものではないと思ってしまったほどだった。その手はガクガクと小刻みに震えていて、恐怖に苛まれているようだった。
『姉貴が交通事故で死んだ』
 文字を見た時、心臓が止まったかと思った。目を疑い、悪い夢でも見ているのかと思う。試しに指で頰をつねってみても痛いだけでその現実は無慈悲でしかなかった。
『嘘だろ?』
『俺も嘘だと思いたいけどな』
 文字は最後になるにつれ、かすれたように弱々しく小さくなっていく。それは本当だと伝えてくるようで、もう返す言葉が思い浮かばなかった。
 授業どころじゃなくて、廊下を走り回り一人になれる場所を探す。階段を駆け上がり、屋上近くにくると、顔をうずめて座り込んだ。
 錦奈がいない。おととい会ってその存在を抱きしめたばかりなのにもうこの世界にはいない。
 好きだと伝えれなかった。錦奈と一緒の日々を過ごせれなかった。心残りばかりが胸に募りに募り、体が重たくなっていく。
 涙が堰をきったように溢れ出し、それは誰かが止めないとおさまることを見せない蛇口のように頬を次々と伝っていく。 
 悲しい、つらい、僕が助けてあげられたらよかったのに。もしくは一緒に死ねたらよかったのに。
 どうしようもない気持ちが渦を巻いてもどかしい。泣いても泣いても、そのまま何も変わらなくて、その日から受験生にもかかわらず不登校になった。
 やるせなさや無力感に押しつぶされ、開けても暮れても涙を流すばかりの日々。もちろんごはんは喉を通らず、気力を失っていく一方だった。
 机に向かう気もなく、ふとんをかぶってなぎじゃくる。どれくらい泣いただろうか。何度枕を濡らしただろうか。たぶん、一生分の涙を流していた。