せめてもの足掻きで顔を上げないようにしてみる。でも5分ぐらいそうしてみても椋翔くんはそれ以上何も筆談を交わしてこようとはしなかった。

 どうしよう。頼まれた櫂冬くんに顔を合わせられない。悲しい、つらい。ドライアイスよりも何倍も椋翔くんは冷たすぎる。嫌いだ。これ以上、関わってやれるものか。諦めて本に読み耽るしか為す術がなかった。


 その日の放課後も、一言も筆談交わさず私は図書室を後にした。

 階段を駆け降り、1階に行こうとする。その足は次の瞬間止められた。

「来てたんだ」

 階段の踊り場から聞こえたのそのつぶやきに生きた心地がしなかった。体全体がすくんで動かなくなる。鎖か何かで縛り付けられたみたいだった。

 聞き覚えがある。その高さ。顔は恐怖の方がまともに勝って見れない。でも誰かわかってしまった。私をいじめてきた人達だ。
 
 立ち止まっていると、あの女子達は近づいてきてくっきりはっきりと威圧感のある声で問いかけてきた。
 
「体育館倉庫、ついてきてくれるよね?」
「……はい」

 ピ――。
 
 どこかで耳鳴りのような合図が鳴る。それは私の人生終了を知らせていた。

 あの女子達の背後を追随する。階段を降りて校舎を出て、体育館の裏に行く。そこにあるサビだらけの古びた倉庫に連行された。

 ガンッ! 

 扉が開き、私はもの凄い力で引っ張られ中の床に打ち付けられる。その衝撃は痛すぎて、背骨にでもヒビが入りそうだった。抵抗する気力もなく、ボールをお腹に打ち付けられる。 

 痛い、つらい。私が何をしたって言うの。

 ――この世界ってどうかしてるのかな。それともわたしがどうかしてるのかな――

 私が庇った美女の叫びが頭をよぎる。