「そんなおおげさだよ、柚香ちゃん。私は楽しかったよ。それに1ヶ月ぐらい休めばすぐ治るし」

 この時には既に癖のような敬語は直り、柚香さんのことも柚香ちゃんと呼べるようになっていた。ちなみに柳くんも櫂冬くんと呼べるようになり、タメ口で話している。

 あとラリーが楽しかったのは最初だけだった。徐々に疲労が蓄積し、最後にはしんどさの方が勝ってた。いつまでこれ、続くのって。

「でもさ、柚香ちゃんもこうやって疲労骨折したんだよね?」

 確認するように問いかけると柚香ちゃんはテーピングされた右手首を見つめながら頷いた。

「それってひどくない?カノジョなのに手加減できないとか。あー、カノジョだからそうせずにできるのかもしれないけど。いや、私にも手を抜こうとしなかったから、そこは関係ないか。でも本当に折れそうに感じたら普通止めるよね?」

 せっかくさりげない仕草とかできるのに、こんな欠点あったら一生結婚とかできなさそう。それについていけねぇわって離れていく友人や部活の先輩もいると思う。
 
「確かにそうだよね。でもあたしが途中で止めれなかった責任もある。櫂冬がラリーしてる姿はめっちゃ必死だし、カッコいいし、ついつい見惚れちゃって……」

 そう言って柚香ちゃんはまた頭を下げてくる。だから「いいってー」となだめた。すると、すぐ顔をあげて「ありがとう!」と言ってくれる。
 
 ラリーしてる姿は凛としていて、つらいけどなんか櫂冬くんがやめるまでつきあってあげたいなぁって思うぐらいカッコよかった。策略とか考えなしに、力まかせに打っている感じはあったけれど。

 櫂冬は日が暮れてもやめようとしなくて、見かねた顧問の先生が「止めないと校門閉めて閉じ込めるぞー!」って毎日のように怒鳴ってきたっけ。その度に、やっと解放されたー!って力が抜けた。

「てかさ、櫂冬くんもよく疲労骨折しないよね。私らはなったのに」
「テニスバカだからね。元々運動神経バツグンだよ。でも勉強はろくにできないし、いつも赤点ばっか。おかげであたしはいつもテスト勉強につきあわされてるよ」