思いもしなかった。あいつが死ぬなんて。
 僕は愛していた。少しの時間だったけど。確かに心の底から愛おしいとさえ思っていた。
 あいつがいない世界を僕は今でもしっかり息をして前を向いて生きていけていない。
 たとえ、何度ラケットを振ってもスマッシュを打っても。
 柚香と付き合って、何度ラリーをしても。いやラリーというより、力まかせの押し付け合いだけど。 
 あいつが戻ってくることはないんだ。
 これまでも、これからも。ずっと。
 これは僕の紛れもない、初恋だ。それは後にテニスバカになったきっかけでもある。
 小さい頃から俺は運動神経がよかった。他は全然ダメで、それだけが取り柄で、バカみたいに自慢していた。別に全国大会いけるくらいでもないのにそうしていた。小さい頃、今は亡き父に褒められたのが嬉しかったから。
「すげぇだろ、こんなこともできるんだぜ」
 小学生の時、見せびらかすように僕はかっこよくスパイクやシュートを打ってみせていた。
「わー、すごい!」
 そう言って、興奮した声で拍手をしてくれる女子もいた。頼りにしてくれる先生もいた。けれど、違う人もいた。
「偉そうに、この!」
 ある男子たちは容赦なく顔やお腹を殴ってきた。
 僕にはこれしかないのに。
 生きがいみたいなものだったのに、それをけなされているみたいで悔しかった。
 でも自慢癖はやめられなくて、点が入った感覚っていうのは爽快でみんなよりうまいっていう事実が嬉しかった。
 そのせいでいじめられ、ある男子たちのランドセルをもたせられたり、せっかく親に買ってもらったゲーム機も壊されたりした。ランドセルに『バカ』とか『クズ』とか張り紙をされたことも何度もあった。
 かばってくれたり、なぐさめてくれたり、はげましてくれるやつは誰もいなかった。
 どうして僕が少しスポーツ万能なことに自慢癖があるだけでこんなことされなくちゃいけないんだ。つらくて、悔しくて、何度泣いたか。消えたい、死にたいと何度思ったか。