――人生は生きづらいって思うことの繰り返し。悲しみの不の連鎖ばかりかもしれない。けれどふとした時に手を伸ばしてくれる人がいる。それは世界中の誰からも嫌われているような、わけのわからない人かもしれない。その人の叫びを聴いた時、あなたはまたきっと前を向いて生きていけるだろう――

 本当にそんなことがあるのだろうか。別の世界のことみたいで、今の私には到底信じられない言葉でしかなかった。

 だって、目の前の椋翔くんは 最初は自分から話かけてきたくせに積極的に話かけてくれることはなくただ静寂が漂い、苛立ちが募る一方だったから。ますますわけがわからなくなった。

 仲良くなれると思うなんて柳くんと丘先生に言われたけれどそんな気はしない。ふたりは私を信じて椋翔くんのことを任せてくれている。その思いを踏みにじっているようで、もどしかった。

 まぁ、運命なんてものは信じてない。何があってもそれは変わらない。ただ椋翔くんの姉の名前と似ているからって、それで私から積極的関わったってどうせ最後には悲しい現実が訪れて裏切られるとわかってるから。
 
 柚香さんはよく帰りがけに櫂冬のラリーにつきあってと言ってきた。

 私はテニスなんかしたことないのに、櫂冬くんは容赦なし。女の子だから手加減もしてくれない。打っているうちにもうどうにでもなれ!と強く打ち返してやったことは何度あったか。そのおかげで苛立ちは吹き飛んだが、右の手首は疲労骨折した。そこは今テーピングされている。
 
「ごめん!あたし手首疲労骨折してるから、櫂冬のラリーにつきあってあげれなくて、でもそんな時に虹七ちゃんが俯きながら早歩きで帰ってるところ見て、気晴らしになると思ってラリー相手頼んだの。なのに気づかないうちに無理させちゃったみたいだね。こんなことになって、本当にごめんね」 

 疲労骨折した次の日、柚香さんとふたりで女子会を開いた。そのとき、彼女は私に土下座をかましてきた。勢い余って、ゴンッという情けない音が静かな私の部屋に響き渡る。