「他に何かされたりした?」
「わたしが近づこうとすると、逃げていくの。何度追いかけても変わらなくて、わたし足遅いからその分つらくて。なんでみんなわたしから離れていくんだろう」

 自分が何をしたのかわからないまま、何かされて嫌われて、避けられて。それはきっとつらいことなのだろうと手にとるようにわかった。

「この世界ってどうかしてるのかな。それともわたしがどうかしてるのかな」
 
 彼女は膝を抱えながらあえぐようにうめいた。そのつらそうな言葉に何を返せば良いのかわからなくなった。中学時代の誰にも言えなかった、私の叫びを彼女が言葉にしてくれた。そのことだけを感じ、心の中で涙を流していた。

 そこで午後の授業のチャイムが鳴る。教室に戻らなければ友達に心配されるし、かといって彼女を放おってはおけない。

「授業、行ける?」
「うん、大丈夫。聞いてくれてありがとう」
「よかった。じゃあね」

 急いでいたのでお互い名前すらも聞かずに教室に戻る。すると友達が「セーフ!」とかって安心させるように言ってくれた。

 その後も授業を受け、帰り際になる。私は友達と一緒に階段を降りていた。

 目の前では追いかけっ子をしているような女子生徒が何人かいた。その1番後には先程話していた彼女がいた。まさか避けられている真っ最中なのではないか。止めなければ。
 
「にじ――」
「なんで避けてるの?もうやめて!」

 友達が背後から止めようとする声がした。でも気づいたらかまわず飛び出し叫んでいた。

「あんた、誰?」
 1番前にいた女子が振り返る。その言葉は地獄の日々の始まりでしかなかった。

「……紫花虹七」
「あ、そう。じゃあ、今から敬語ね」
「へ?あ、はい」