家に帰ってスマホを見てみる。そこにはまだ柚香ちゃんと櫂冬くんの連絡先があった。でもブロックされていたり、なんか送っても返信はおろか、見てもくれないのだろう。その現実を突きつけられるのが怖くて、スマホの電源を落とした。
「はーっ」
 無意識にため息がもれ、電気もつけずにベッドの上で膝を抱えてうずくまる。一応起き上がったり、壁に手を当てて歩くことはできる。なんか小さい子どもに戻ったような、いや、違う。年は若いのにおばあちゃんになっちゃったみたいな感じだ。動きにくくて痛みがひどいせいか、意識は時折虚ろになる。
 なんて惨めなんだ、私は。誰からも嫌われるとか。自己嫌悪は募りをますます深めていく。それでもなんでこうなってしまったのかはわからない。
 その現実に涙が止まらない。コップにヒビでも入って、そこから溢れ出しているような感じだ。
 運命を信じていたなんて、バカみたいな私がどこかにいたのだろうか。浮かれている自分がいたのだろうか。だから裏切られたのか。
 そう思ったら苛立った。私は運命なんて信じてないはずだから。なんで知らぬ間にこうなっているんだって。
 泣き崩れているとキィーと扉が開き、パチリと電気がつけられる。
「どうした、虹七?」
 ノックもせずに部屋に入ってきたのは父さんだった。うずめたままだから顔は見えないけれど聞き慣れさでわかる。
「家の父さんみたいじゃないか。その姿は。そんなにつらいのはあの子のせいか?頭に防音イヤーマフをつけている」
「え……ヘッドフォンじゃなくて?」
 予想の遥か斜め上の質問をされ、動揺する。おもむろに顔を上げるとぼんやりとした視界の中、父さんが私の真横に人1人分ぐらいの間を開けて腰かけた。
「そう。病院でカウンセリングを受けてる人のことを話すわけにはいけないが、今回は仕方ないな。紅椋翔くん。彼は父さんが担当している」
「なんで……」
 半信半疑で自分の耳を疑った。なぜ父さんが知っているのだろうか。精神科医だからか。いや、椋翔くんは耳が聞こえすぎてるからもっと違うどこかの科だろう。父さんとは絶対に巡り合うわけがない。
「あの子は父さんに最初から筆談を要求してきたな。カウンセリングしようとしても、冷たく突き放してくるような言葉を出すことがあるし、あまりにも心を開いてくれなくててこずっているんだ。父さん小学生の時から精神科医目指してきて、大学出てやっと精神科医につけて、もう何年もやってんのにな……」
 声は最後になるほどしぼむように小さくなっていった。私と同じではないか。というか、声の低みと重みが私より苦労してるように伝わってくる。これはどういうことなのだろう。