でも母さんの状態は明るくなるどころか、悪化していく一方であった。ご飯もろくに食べず部屋にこもりっきり。父さんは家事や私の育児がままならなくなり、一時期おばあちゃんの家に預けられたことがある。

 弟の流産を知らなくて、母さんがどうしてこんなに病んでいるのかもわけがわからなかった。

 そしていつの間にか心にぽっかりと穴が開いていた。

 おばあちゃんは優しくて強い人で私に簡単な料理を教えてくれた。いろんなところに連れていてくれたりもしたっけ。

 時々父さんは様子を見に来てくれて泊まったりもした。でも死んだ顔をしていた。ぐったりしていて生き疲れた人間そのものであった。

 母さんは知らないうちに亡くなり、涙のダムが溢れてやまなかった。「葬式行くよ」とおばあちゃんに手を引かれても「やだやだ!」って小6なのに小さな子どもみたいに反抗していた。

 時は流れ、中学校へ入る。それからというもの、平和な学校生活は一変した。

「学級委員、立候補する人いますかー?」
「えー、いやだ」
「面倒くさい」

 挙手を要求する教師にグダグダと文句を言う生徒達。

 私はクラスで目立ってたのは身長だけであとは何もなかった。当時は地味な委員を選ぼうとしていた。母さんを亡くしたことで何かをやろうとする気力を失っていたから。
 
「レインボウでよくね?虹って目立つし」

 そんな中思いもよらない発言をしたのは隣の小学校から同じ中学校に通い始めたとある男子生徒であった。

「確かに!」
「ねぇ、やってよー」

 他のみんなは共感するようにニコニコと頷いている。その圧に耐えきれずもうどうにでもなれ!と思いながら勢い良く手を上げた。すなわち、クラス中から面倒な役を押し付けられたのだ。