首をかしげていると、柳くんは私の心を見透かしてきたような発言をした。

「何かって……なんですか?」
「僕は椋翔のことをよく知らない。それに友好的じゃないし、気に入らない。だけど本人に聞いてみるしかないと思います」

 知ってるわけがない。柳くんは椋翔くんと仲良くないみたいだし。でも聞かずにはいられなかった。

 目と鼻の先には築40年くらいの古びた一戸建ての家が見えてくる。周りはブロック塀で囲まれていて、入口には灰色に塗装された柵みたいな扉がある。その前で小さく手を振った。
 
「そうですよね……じゃあ私家ここなんで。失礼します」

 扉を押して中に入り、鞄から鍵を取り出し差し込もうとする。でもその手は次の瞬間動かなくなった。

「待ってください。その癖みたいな敬語、直した方がいいと思います。柚香は優しいけど、敬語だとどうしても距離感じるから話しにくいと言ってました。僕的にも話しにくいです」 
 
 振り向くと柳くんは俯いていた。顔は見えないけれど、きっと辛い顔をしているのだろう。

 言われて初めて実感する。こんなに敬語が治らないのはなんか変だ。私、いつからそうなんだっけ。 
 
「そうだよ、ですよね。頑張って直してみます」

 直そうと意識しても結局は敬語がこぼれてしまう。
 
「では、また」

 柳くんはペコリとおじぎをして踵を返した。自分の家は既に通り過ぎていたらしい。きっと私が敬語を使っていたせいだ。それで彼に気を遣わせてしまった。

 情けない。自分が惨めに思えてくる。

 その気持ちを潰すように唇を噛む。それからドアを開けて中に入った。リビングの電気はついていないが、かすかになにかがいるような物音がした。ポルターガイストか。それとも……。

「父さん、毎回こうだと心臓に悪い」