「ちょっと話したいことあるからついでです」

 そう言ってしれっと私の歩くスピードに合わせてくれる。絶対女子はモテモテになりそうだ。柚香さんが好きになる気持ちがわかる気がする。だからといって、とったりはしないけれど。

「は、話したいことって……何ですか?」
 
 しかし、声は無意識に上擦る。
 
「さっきの椋翔を教室に復帰させる作戦について。僕はそんなに本好きじゃないから柚香さんが行かない限り、図書室行ったりしないし」

 確かに柚香さんがテニスバカと毒ついていた。ということはしばらくは私が頑張らなくてはいけない。でもあのイケメンなよくわからないやつとうまく関われるだろうか。自信がない。 

「とりあえずの目標は柚香をプロット作る気にさせることです。紅はすぐ小説を書き上げてしまうから困ると思います」
「えっと……それは柳くんが」

 柚香さんを励ましたりなんかしたりすれば大丈夫なような。

「僕じゃどうしても力不足です。椋翔は書いた小説を一度も柚香に見せてないし」 
 確かに。柳くんの言う事には一理ある。

「もし僕が椋翔と仲良くなって小説を見せてくれるのなら、僕はそれを借りてこっそり柚香に見せます。だから、虹七さんには椋翔と仲良くなってほしいんです」

 そして、私が小説を借りてこっそり柚香さんに見せる。でもそれは罪悪感を覚えざるを得ない。

「そんなことして……いいんでしょうか?」
「そうするしかない。それに虹七さんなら椋翔と仲良くなれると思います」

 柳くんんはそう言ってエールを送るように笑いかけてくれた。

 ――虹七さんなら椋翔くんとわかりあえる気がする。たぶん――

 丘先生といい、柳君といいふたりしてどうしてそこまで信じてくれるのだろう。
 
「柚香から聞きました。椋翔が自分から虹七さんに話かけたこと。僕にも柚香にもしてくれなかったことを椋翔は虹七さんにした。だから何かあると思うんです」