柳くんは寂しそうだ。肩を落としてすねている。でも私自身女子会というものに憧れがある。やったことがないからだ。よって、慰める気はない。

「あとこれ、授業ノートのコピーね」

 柚香さんは意気消沈する柳くんを置いて紙の束を渡してきた。それは柔らかくて丸い字でキレイにまとめてくれている。きっと疲労骨折する前に書いたものなのだろう。小学生のなぐり書きみたいに汚い椋翔くんの字とは月とスッポンの差がある。

「ありがとう、ございます!わぁー……」
「あー、中には今日左手で書いたものもあるからそれは読みにくいよ」

 柚香さんは心配そうに眉根を下げた。でもさすがに椋翔くんほどではないだろう。そうではない限りは読める。
 
「大丈夫です……助かります」
「いいのいいの。そのうち一緒に教室いけたら嬉しいなー」
「そ、それはまだ……」

 同じクラスに柚香さんがいるのは頼もしいが戻る気にはなれない。今でもあのときの記憶ははっきりと頭にこびりついている。

「せかすようなこと言ってごめんね。ゆっくりでいいよ」

 俯いていると、柚香さんは謝ってくれた。その優しさに胸がポッと温かくなる。 

「うんん……ありがとうございます」
「じゃあ、図書室は行かないけど見かけたら声かけるから。またね」

 柚香さんはそう言って左手でバイバイと手を振ってくれた。ふたつの分かれ道があり、私が向かう方向とは逆の方に彼女は走っていった。 

「家まで送ります」
「えっ、大丈夫です」

 さりげなく道路側を歩こうとする柳くんを私は制した。

「そんなに暗くないし、柚香さんに怒られますよ?」
 
 浮気してるんじゃないかって。