「虹七ちゃーん!」

 後の方から元気な声がする。振り返ると柚香さんが開いた傘を片手に駆け寄ってきた。

「そ、そんなに走ったら……濡れますよ?」
「いいのいいの。どうせ風邪ひいたりしても既に手首疲労骨折してるから、練習できないのは同じだし」
「待てよ、柚香!」

 柚香さんはそう言って屈託のない笑みを浮かべている。その後には柳くんもいた。

「でも風邪ひいたら学校休まなくちゃだし、虹七ちゃんに会えないや」

 その発言はまるで私に会いたいから学校に来ていると言っている。

「今日初めて会って、話したんですよ?大げさです」
「あたしの愚痴聞いてくれたから虹七ちゃんはもう友達なの。だから連絡先交換しよう」
「へっ……」

 愚痴?あ、椋翔くんのか。
 
 図書室の引き戸の前で話した時の顔を思い出す。あれは確かに畏怖した。

 でも連絡先交換なんていつぶりだろう。スマホを確認しても家族のしかない。高1の夏にいじめられてからというもの、当時の連絡先はすべて消去してある。完全なるぼっちな本の虫だ。友達なんて言葉も久しぶりに聞いた気がする。

「図書室来れば、いつでも会えるますよ?」
「やだ、椋翔くんと会いたくない。でも虹七ちゃんとは話したい」

 柚香さんはぶりっこなのか、頰をぷくうと膨らませた。

「僕もいいですか?」
「櫂冬、浮気するつもり?」

 のりだす柳くんに対抗する柚香さん。一瞬にして修羅場化したように空気が緊迫する。
 
「いや、そんなんじゃない。僕は柚香のカレシだし。椋翔のクラスメイトでもあるから、教室戻れるようになんか虹七さんに協力してもらいたいなと思って。てごわいやつだし」