「とにかく1週間。いや、2週間図書室登校続けてみて!それでわかりあえなかったら、先生諦めるから。一生のお願い!」
「えっ……」

 丘先生はそう言って床にひざまずき、土下座をかましてきた。その勢いが強すぎて床に額がゴンッと当たる音がする。

「一生って、大げさですよ。そこまでしなくても……」
「受けてくれるのね、ありがとう!良い結果を期待してるわ」

 戸惑っていると、丘先生は飛び上がって私の右手を掴んで握手してきた。

 なんかこの先生にもうまく丸めこまれている気がする。こんな対応されたら断れないではないか。

「わかりました……なんとかやってみます」
「あとは任せるから頑張ってね。なんかあったら放課後、ここに来てくれたらなんでも聞くし。じゃあ、今日はお疲れ様!」

 丘先生はそう言ってバイバイと手を振った。

「はーっ」

 保健室を出た途端、肩の荷が降りた感覚がした。どっと体が重くなり、そのまま向かいにある壁に手をつく。

 なんなのだろう、今日は。運勢が大凶だったりするのか?いや、そうとしか思えない。

 結局、耳が聞こえすぎることについて何も聞けなかったし。聞きに戻るにしても空気的に気まずいし。

 丘先生も椋翔くんも苦手だ。ムカつく。

 腹の虫が収まらない中、制服のスカートの裾を強く握り締める。それから重い足取りで、怒りを踏み潰すように早歩きで校舎を後にした。

「げ、まだ雨降ってるし」

 制服が濡れてしまうではないか。いつ止むんだ、この雨は。とはいえ、朝のような滝のような勢いはない。小降りでとりあえず傘は差すぐらいだ。

 校庭の桜の木はもう半分以上も散っており、近くの大きな川には花筏(はないかだ)ができていた。たくさんの花弁が川の水面に浮かび、帯のように流れていく。その儚さと美しさは幻想的であった。