無視するようにスタスタと図書室を後にする。その間、椋翔くんは少しも追いかけてこようとはしなかった。自分の足音しか聞こえないのがその証拠だ。

 運命的なものを感じたとか筆談で伝えてきたくせに、積極的に話かけてこようともしない。変なやつだ。

 入口引き戸を閉め、パタパタと階段を駆け降りていく。誰にも目を合わせように俯いて、自然と苦虫を噛み潰すように歯を食いしばった。

 少しもしない間に1階にたどり着き、保健室の引き戸を勢いよく開ける。それから吐き捨てた。

「なんなんですか?椋翔くんって」
「まぁまぁ、落ち着いて。虹七さん、そこ座って」

 ぶちギレる私に丘先生は苦笑いを返しながら丸イスに誘導した。ふつふつと湧き上がる怒りをなんとか抑えようともがきながら腰を降ろす。

「あの子ね、先生も苦手なの。始めから保健室登校は拒否するし、自分から話そうとはしないし、筆談を強要してくるし、話しようとしても、ろくに話そうとはさせてくれない。なのに図書室登校を提案したらあっさり了承してくれるし、本当わけわかんない」

 さすがに丘先生も手を焼いているようだ。やれやれと両手を上げている。

「そうなんです……」

 私にも筆談を強制してくるし、言葉は冷たいし、せっかくプロット作ってくれた人を追い出そうとするし、最低だ。でも私の弟になってという恥ずかしいお願いは了承してくれるし、理解不能な人だ。どうかしている。

「でも明らかに何か違うの。私に対する態度と虹七さんに対する態度が」

 共感していると、丘先生は半信半疑な目をして言った。
 
「へっ……そんなわけ、ないじゃないですか?」

 大体感じるわけない。丘先生が来たのは昼休みだけなのだから。その時は私との筆談も少なかったし、違和感なんて見つからないはずだ。

「こうなんか……うーん、どうやって表せばいいの?でも虹七さんなら椋翔くんとわかりあえる気がする。たぶん」
「は?先生……何を言ってるんですか?」

 たぶんって。具体的じゃないし、ふざけてるとしか思えない。