どうしよう。確かにパニックになって倒れかけた。調子も狂いすぎたし、保健室で丘先生と2人で過ごしていた時よりかは圧倒的に刺激は多すぎる。戻るのが最善かもしれない。それにあんなムカつくやつとは仲良くなりたくなんかない。
  
「戻ります」
「そうよね。あ、そろそろ昼休み終わるから先生戻るね。用事あるし。もし何かあったら内線かけて」

 丘先生は私の希望を無視して図書室の引き戸の横の壁に固定されている電話を指差した。それからあっという間に飲み干していたコップを3つお盆に乗せて退散していった。ふたりきりになり静かになる中、午後の授業開始の合図がなった。

 隣の椋翔くんを見てみると、何事もなかったかのようにノートにペンを走らせている。たぶん柚香さんがくれたプロットを元に小説を書いているのだろう。

 その姿は凛としていて、集中力が途切れることなく、ペン先が紙を滑る音だけが静謐な空間に響いている。まるで時間が彼だけのために止まっているかのようで、そのひたむきな姿に思わず目を奪われた。

 内容がどんなものか気になってしまうが、その真剣な表情を見ると、声をかけるのがためらわれるほどだ。 

 かといって、今は本を読む気にもなれない。窓の外を眺めても依然として雨が降っているだけ。特にお腹も空いていなかったので机に突っ伏しぼんやりと過ごすしかなかった。


 あっという間に午後の授業は終わったらしく、チャイムはだいぶ前に鳴った。時計を見れば5時前でもう帰る時間だ。

 その前に保健室を訪ねなければ。丘先生に聞きたいことがあるし。席を立ち、本を鞄にしまう。隣を見れば椋翔くんはまだ小説を書いていた。去ろうとしてることすらも察してないようだ。

 仲良くしろと命令されたのだから何か筆談を交わしてから出ていった方がいいだろうか。いや、無理だ。どうせまた調子を狂わされる。