翌日。昨日とは打って変わったような春空が広がる中、図書室の引き戸を開ける。すると、椅子に座ってノートに何か書き込んでいた椋翔くんが顔を上げて、それから会釈をするようにペコリと頭を下げてきた。
それに対し、とりあえず会釈を返してみる。私が席に向かおうとすると、椋翔くんは学ランのポケットからメモ帳を取り出し、ペンを滑らせる。
何か筆談をしようとしているのかと思いながら隣の席に座ると、彼はメモ帳を見せてきた。
『おはよう。昨日はなんで、昼から話かけてこなかったんだ?』
字の汚さからも怒りが伝わってくる気がして、恐る恐る顔を見る。すると、曇り空に覆われた冬ごとく冷ややかな瞳が睨んできた。
磁力でもあるのだろうか。強制的に引き寄せられてしまう。あまりの怖さに体が縮みあがりそうだ。
後退るように目を逸らす。それから鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。いちいち借りるのは面倒くさいし、いつ筆談が始まってもいいように用意だけはしていたのだ。
『そっちもなんで今まで話かけなかったんですか?』
運命的なものを感じたとか言いながらも全然アグレッシブではなかったし、嘘つき。
『仲良くしろと言ったのは俺だ』
ごもっともだ。でも小説を書いてる姿が凛々しすぎていて目が釘付けにされたなんて言えない。まるで好きとか言ってるみたいだし、椋翔くんは嫌いになりそう。というか、嫌いだ。年下のくせに偉そうに接してきやがって。
ふつふつと怒りが湧き上がる。そのせいで自然と字が殴り書きになった。
『無理です』
『弟になってと頼んできたのは姉貴だ』
間違いない。とんでもなく恥ずかしい発言を私はした。だからといって話かける気もなかった。
『じゃあ、それはなかったことにしよう』
ただの図書室登校を共にしている、赤の他人。そう、そもそもの関係を断ち切ればいい。
『いやだ。この出会いを帳消しにはできない』
『なんで?』
『運命的なもの感じたから』
『私はいやです。関わりたくないです』
『姉貴に拒否権はない』
は?なんなの、こいつ。虫の居所が悪いわ。やっぱり絶対仲良くなんて無理難題。
『それより、弟になってとは言ってきたけどさ、具体的に何すりゃいい?』
私のぶちギレもおかまいなしに椋翔くんは話を振ってくる。けれど弟が産まれなかった私にとってはどういうふうにすれば、姉弟らしくなれるのかもわからない。
『知りません。ひとりっ子だし』
それに具体例が出せない理由として、知り合ってまだ間もない人に弟の流産を話すのは少し気恥ずかしい。間違いなく空気も重たくなる。
『相変わらず敬語直んねぇな。まぁいい。例えば一緒に寝るとかお出かけするとかだろ』
「は?」
揺らぎもしない瞳でメモ帳を見せてくる椋翔くんに不覚にも声が上擦り、椅子から崩れ落ちそうになる。それを慌てて机に手をつき、止めた。一緒に寝るとかいきなりなんてことを言ってくるんだ。付き合ってる異性とか兄弟でも小さい時なら当たり前にしてるかもしれないけど、私達はそういう感じではない。
それに対し、とりあえず会釈を返してみる。私が席に向かおうとすると、椋翔くんは学ランのポケットからメモ帳を取り出し、ペンを滑らせる。
何か筆談をしようとしているのかと思いながら隣の席に座ると、彼はメモ帳を見せてきた。
『おはよう。昨日はなんで、昼から話かけてこなかったんだ?』
字の汚さからも怒りが伝わってくる気がして、恐る恐る顔を見る。すると、曇り空に覆われた冬ごとく冷ややかな瞳が睨んできた。
磁力でもあるのだろうか。強制的に引き寄せられてしまう。あまりの怖さに体が縮みあがりそうだ。
後退るように目を逸らす。それから鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。いちいち借りるのは面倒くさいし、いつ筆談が始まってもいいように用意だけはしていたのだ。
『そっちもなんで今まで話かけなかったんですか?』
運命的なものを感じたとか言いながらも全然アグレッシブではなかったし、嘘つき。
『仲良くしろと言ったのは俺だ』
ごもっともだ。でも小説を書いてる姿が凛々しすぎていて目が釘付けにされたなんて言えない。まるで好きとか言ってるみたいだし、椋翔くんは嫌いになりそう。というか、嫌いだ。年下のくせに偉そうに接してきやがって。
ふつふつと怒りが湧き上がる。そのせいで自然と字が殴り書きになった。
『無理です』
『弟になってと頼んできたのは姉貴だ』
間違いない。とんでもなく恥ずかしい発言を私はした。だからといって話かける気もなかった。
『じゃあ、それはなかったことにしよう』
ただの図書室登校を共にしている、赤の他人。そう、そもそもの関係を断ち切ればいい。
『いやだ。この出会いを帳消しにはできない』
『なんで?』
『運命的なもの感じたから』
『私はいやです。関わりたくないです』
『姉貴に拒否権はない』
は?なんなの、こいつ。虫の居所が悪いわ。やっぱり絶対仲良くなんて無理難題。
『それより、弟になってとは言ってきたけどさ、具体的に何すりゃいい?』
私のぶちギレもおかまいなしに椋翔くんは話を振ってくる。けれど弟が産まれなかった私にとってはどういうふうにすれば、姉弟らしくなれるのかもわからない。
『知りません。ひとりっ子だし』
それに具体例が出せない理由として、知り合ってまだ間もない人に弟の流産を話すのは少し気恥ずかしい。間違いなく空気も重たくなる。
『相変わらず敬語直んねぇな。まぁいい。例えば一緒に寝るとかお出かけするとかだろ』
「は?」
揺らぎもしない瞳でメモ帳を見せてくる椋翔くんに不覚にも声が上擦り、椅子から崩れ落ちそうになる。それを慌てて机に手をつき、止めた。一緒に寝るとかいきなりなんてことを言ってくるんだ。付き合ってる異性とか兄弟でも小さい時なら当たり前にしてるかもしれないけど、私達はそういう感じではない。