とりとめのない会話を交わし、連絡先を交換する。ふたりはすぐによろしく!とスタンプを送ってきた。それはおそろいのかわいいスタンプで仲が良いことが目に見えて伝わってくる。
「そのうちふたりで遊ぼ?」
 柚香さんはそう言ってニコニコと笑いかけてくる。
「え、僕は!?」
「女子会するの!男子はお断り」
「ま、まじかよー」
 柳くんは寂しそうだ。肩を落としてすねている。でも私自身女子会というものに憧れがある。やったことがないからだ。よって、慰める気はない。
「あとこれ、授業ノートのコピーね」
 柚香さんは意気消沈する柳くんを置いて紙の束を渡してきた。それは柔らかくて丸い字でキレイにまとめてくれている。きっと疲労骨折する前に書いたものなのだろう。小学生のなぐり書きみたいに汚い椋翔くんの字とは月とスッポンの差がある。
「ありがとう、ございます!わぁー……」
「あー、中には今日左手で書いたものもあるからそれは読みにくいよ」
 柚香さんは心配そうに眉根を下げた。でもさすがに椋翔くんほどではないだろう。そうではない限りは読める。
「大丈夫です……助かります」
「いいのいいの。そのうち一緒に教室いけたら嬉しいなー」
「そ、それはまだ……」
 同じクラスに柚香さんがいるのは頼もしいが戻る気にはなれない。今でもあのときの記憶ははっきりと頭にこびりついている。
「せかすようなこと言ってごめんね。ゆっくりでいいよ」
 俯いていると、柚香さんは謝ってくれた。その優しさに胸がポッと温かくなる。 
「うんん……ありがとうございます」
「じゃあ、図書室は行かないけど見かけたら声かけるから。またね」
 柚香さんはそう言って左手でバイバイと手を振ってくれた。ふたつの分かれ道があり、私が向かう方向とは逆の方に彼女は走っていった。 
「家まで送ります」
「えっ、大丈夫です」
 さりげなく道路側を歩こうとする柳くんを私は制した。
「そんなに暗くないし、柚香さんに怒られますよ?」
 浮気してるんじゃないかって。
「ちょっと話したいことあるからついでです」
 そう言ってしれっと私の歩くスピードに合わせてくれる。道路側を歩いてくれているし、絶対女子はモテモテになりそうだ。柚香さんが好きになる気持ちがわかる気がする。だからといって、とったりはしないけれど。
「は、話したいことって……何ですか?」 
 しかし、声は無意識に上擦る。 
「さっきの椋翔を教室に復帰させる作戦について。僕はそんなに本好きじゃないから柚香さんが行かない限り、図書室行ったりしないし」
 確かに柚香さんがテニスバカと毒ついていた。ということはしばらくは私が頑張らなくてはいけない。でもあのイケメンなよくわからないやつとうまく関われるだろうか。自信がない。 
「とりあえずの目標は柚香をプロット作る気にさせることです。椋翔はすぐ小説を書き上げてしまうから困ると思います」
「えっと……それは柳くんが」
 柚香さんを励ましたりなんかしたりすれば大丈夫なような。
「僕じゃどうしても力不足です。椋翔は書いた小説を一度も柚香に見せてないし」 
 確かに。柳くんの言う事には一理ある。
「もし僕が椋翔と仲良くなって小説を見せてくれるのなら、僕はそれを借りてこっそり柚香に見せます。だから、虹七さんには椋翔と仲良くなってほしいんです」
 そして、私が小説を借りてこっそり柚香さんに見せる。でもそれは罪悪感を覚えざるを得ない。