「げ、まだ雨降ってるし」
制服が濡れてしまうではないか。いつ止むんだ、この雨は。とはいえ、朝のような滝のような勢いはない。小降りでとりあえず傘は差すぐらいだ。
校庭の桜の木はもう半分以上も散っており、近くの大きな川には花筏ができていた。たくさんの花弁が川の水面に浮かび、帯のように流れていく。その儚さと美しさは幻想的であった。
「虹七ちゃーん!」
後の方から元気な声がする。振り返ると柚香さんが開いた傘を片手に駆け寄ってきた。
「そ、そんなに走ったら……濡れますよ?」
「いいのいいの。どうせ風邪ひいたりしても既に手首疲労骨折してるから、練習できないのは同じだし」
「待てよ、柚香!」
柚香さんはそう言って屈託のない笑みを浮かべている。その後には柳くんもいた。
「でも風邪ひいたら学校休まなくちゃだし、虹七ちゃんに会えないや」
その発言はまるで私に会いたいから学校に来ていると言っている。
「今日初めて会って、話したんですよ?大げさです」
「あたしの愚痴聞いてくれたから虹七ちゃんはもう友達なの。だから連絡先交換しよう」
「へっ……」
愚痴?あ、椋翔くんのか。
図書室の引き戸の前で話した時の顔を思い出す。あれは確かに畏怖した。
でも連絡先交換なんていつぶりだろう。スマホを確認しても家族のしかない。高1の夏にいじめられてからというもの、当時の連絡先はすべて消去してある。完全なるぼっちな本の虫だ。友達なんて言葉も久しぶりに聞いた気がする。
「図書室来れば、いつでも会えるますよ?」
「やだ、椋翔くんと会いたくない。でも虹七ちゃんとは話したい」
柚香さんはぶりっこなのか、頰をぷくうと膨らませた。
「僕もいいですか?」
「櫂冬、浮気するつもり?」
のりだす柳くんに対抗する柚香さん。一瞬にして修羅場化したように空気が緊迫する。
「いや、そんなんじゃない。僕は柚香のカレシだし。椋翔のクラスメイトでもあるから、教室戻れるようになんか虹七さんに協力してもらいたいなと思って。てごわいやつだし」
柳くんはそう言って頭を軽くかいている。
間違いない。椋翔くんと私らの間には高くて分厚い壁が立ちはだかっている。うまく関わるにしても困難を要するだろう。協力は不可欠だ。
「確かに。でもあたしは諦めた。協力しても無駄だと思う」
柚香さんは正反対でプイッと目線を逸らしている。
「僕は諦めない!そのうち椋翔と友達になりたいから」
だが、柳くんは一歩も引かない様子だ。
「今日……追い出されたんですよね!?」
「そんなんじゃ、僕の心は折れたりしませんよ」
私が問いただしてもキリッとした上がり眉を崩そうとはしない。頑なでメンタルが強そうである。
「相変わらず強気だなー櫂冬は」
柚香さんはそれを見てぼやいた。口をタコのようにすぼめ、ため息を小さくついている。
「交換しましょう。私、恋愛とか興味ありませんし」
好きでもない人のカレシをとるまねなんてしない。そもそも未経験だし。
丘先生のお願いを引き受けたのは事実だし、少しは期待に応えなければ。
「まぁ、虹七ちゃんはとるような人に見えないしいっか。でももし浮気したらただじゃおかないよ、櫂冬!この手首は櫂冬のために使ってるんだから」
「わかってるって」
本当に一途だなぁ、柚香さんは。私とは大違いで真っ直ぐだ。
制服が濡れてしまうではないか。いつ止むんだ、この雨は。とはいえ、朝のような滝のような勢いはない。小降りでとりあえず傘は差すぐらいだ。
校庭の桜の木はもう半分以上も散っており、近くの大きな川には花筏ができていた。たくさんの花弁が川の水面に浮かび、帯のように流れていく。その儚さと美しさは幻想的であった。
「虹七ちゃーん!」
後の方から元気な声がする。振り返ると柚香さんが開いた傘を片手に駆け寄ってきた。
「そ、そんなに走ったら……濡れますよ?」
「いいのいいの。どうせ風邪ひいたりしても既に手首疲労骨折してるから、練習できないのは同じだし」
「待てよ、柚香!」
柚香さんはそう言って屈託のない笑みを浮かべている。その後には柳くんもいた。
「でも風邪ひいたら学校休まなくちゃだし、虹七ちゃんに会えないや」
その発言はまるで私に会いたいから学校に来ていると言っている。
「今日初めて会って、話したんですよ?大げさです」
「あたしの愚痴聞いてくれたから虹七ちゃんはもう友達なの。だから連絡先交換しよう」
「へっ……」
愚痴?あ、椋翔くんのか。
図書室の引き戸の前で話した時の顔を思い出す。あれは確かに畏怖した。
でも連絡先交換なんていつぶりだろう。スマホを確認しても家族のしかない。高1の夏にいじめられてからというもの、当時の連絡先はすべて消去してある。完全なるぼっちな本の虫だ。友達なんて言葉も久しぶりに聞いた気がする。
「図書室来れば、いつでも会えるますよ?」
「やだ、椋翔くんと会いたくない。でも虹七ちゃんとは話したい」
柚香さんはぶりっこなのか、頰をぷくうと膨らませた。
「僕もいいですか?」
「櫂冬、浮気するつもり?」
のりだす柳くんに対抗する柚香さん。一瞬にして修羅場化したように空気が緊迫する。
「いや、そんなんじゃない。僕は柚香のカレシだし。椋翔のクラスメイトでもあるから、教室戻れるようになんか虹七さんに協力してもらいたいなと思って。てごわいやつだし」
柳くんはそう言って頭を軽くかいている。
間違いない。椋翔くんと私らの間には高くて分厚い壁が立ちはだかっている。うまく関わるにしても困難を要するだろう。協力は不可欠だ。
「確かに。でもあたしは諦めた。協力しても無駄だと思う」
柚香さんは正反対でプイッと目線を逸らしている。
「僕は諦めない!そのうち椋翔と友達になりたいから」
だが、柳くんは一歩も引かない様子だ。
「今日……追い出されたんですよね!?」
「そんなんじゃ、僕の心は折れたりしませんよ」
私が問いただしてもキリッとした上がり眉を崩そうとはしない。頑なでメンタルが強そうである。
「相変わらず強気だなー櫂冬は」
柚香さんはそれを見てぼやいた。口をタコのようにすぼめ、ため息を小さくついている。
「交換しましょう。私、恋愛とか興味ありませんし」
好きでもない人のカレシをとるまねなんてしない。そもそも未経験だし。
丘先生のお願いを引き受けたのは事実だし、少しは期待に応えなければ。
「まぁ、虹七ちゃんはとるような人に見えないしいっか。でももし浮気したらただじゃおかないよ、櫂冬!この手首は櫂冬のために使ってるんだから」
「わかってるって」
本当に一途だなぁ、柚香さんは。私とは大違いで真っ直ぐだ。