兄、姉、弟、妹。
 上の子や下の子がいるというのは、どういうことなのだろう。
 そんな問題を出されても、私にはいくら考えても解けない。埋められない空欄をじっと見つめるしかない。
 なぜなら……。
「無事に産めなくてごめんね」
 何かの儀式のように毎日自分のお腹を触りながら母さんは泣き叫んでいる。
 その声は罪悪感と後悔と自己嫌悪にさいなまれているように複雑でつらそうだった。
「おたふくだったんだから仕方ないじゃないか」
 その横で父さんは母さんの背中をさすっている。なだめるように、それでいて、はれものにさわるみたいな頼りない手で。
 それを尻目に私はただ本に読み耽っていた。
 弟か妹が産まれる予定だったはずが、流産してしまったのだ。
 その子には『くなと』という名前がつけられた。一応性別は男とわかっていたし、スプーンのような器具で母さんのお腹の中から掻き出された日が9月10日だからだ。その日は『くなと』の誕生日でもあり、命日でもある。
 だからわからない。周りに兄弟で暮らしている人がいても、その気持ちを100%理解はできない。
 産まれずして亡くた弟の後を追うように母さんも自殺した。
 家の中がいつもより広く感じて、その感覚は寂しさと無力感と絶望感を連れてきた。胸の中にぽっかりと穴が空いたみたいだった。
 いくら時が流れてもその感覚は消えることなく、ふとした瞬間に顔を出す。それは暗い洞窟のように、何かを求めていた。
 生きているはずなのにそんな感じがしなくて、自分が自分じゃないみたい。
 虚ろな目でベッドに寝そべりだらだらと過ごす。暮れても開けても。
 でも彼と出会った時、私はなぜか口に出していた。初対面なのに、後先考えずに。
「わ、私の弟になって」
 その一言から時計の針は時を刻み始めた。