さて最近、ココ村支部や周辺で、他に変化があったものといえば。

 ルシウスがココ村海岸の砂浜で作っていた砂のオブジェが次々と崩れて消滅していた。
 確かに時間経過で少しずつ崩れるように魔法樹脂で緩く固めているだけのものだったのだが、あまりにも早すぎる。

「やああ……僕のお魚さんとお城があ……っ」

 ぐしぐしっと泣きながら、ルシウスがまた新たに砂でオブジェを作っている。

 早朝、まだ日差しが柔らかく比較的涼しい時刻のこと。
 早起きして食堂でお茶を飲もうとしたら、ばったり女魔法使いのハスミンと出くわした。

 さすがにまだ誰もいない早朝で、ハスミンもいつもの真っ黒な先折れ帽子や長いローブ姿ではなかった。
 両肩を出した涼しそうな白いワンピース姿で、いつも巻き毛をポニーテールにしている純金色の髪は緩く三つ編みにして胸元に垂らしている。

 そのまま彼女に誘われて海岸に朝のお散歩に出て、無残なオブジェの跡を見つけてしまったのだ。



「ルシウスくーん。あたし、魔導写真機持ってるのよーん。写真撮っておうちに送ってあげるから、立派なの、また作って見せてよ」
「ほんと!? ハスミンさん!」
「ほんとほんと♪」

 ハスミンの白いワンピースの腰の辺りに、例の新世代魔力使い特有の光の円環、(リンク)が浮かんでいる。
 可憐なお人形さんのような容姿の彼女が朝陽の照らす中、光の円環の中にいる姿は、まるで天の御使いかと見紛うような光景だ。

 ボーっとルシウスが砂地にしゃがみ込んでその綺麗な光景に見惚れていると、ハスミンは(リンク)に指先をそっと差し入れて、中からカードサイズの薄い板を取り出した。
 中央に魔石のレンズが嵌まっているそれが、魔導写真機という、実物そのままに絵姿を写し取るための魔導具である。

 この魔導具については、リースト伯爵家という魔法の大家のおうち出身のルシウスも知っていた。
 パパにおねだりしたら、「お前に渡すとすぐ壊しそうだからパパが買ってパパが管理します!」と言われてしまったやつだ。
 かなりお高くて、大金貨(一枚約20万円)数枚分する。



 というわけで、ルシウスは涙を拭って発奮した。
 散歩に出ていた早朝のうちに、まず2体を一気に作り上げた。

 一匹目はデビルズサーモン、二匹目は吸血オクトパスだ。
 作り上げたものはハスミンの勧めで、魔法樹脂でガチッと固めて容易には崩れないようにした。
 そしてそのまま、砂のお魚さんモンスターと記念撮影だ。

「はーい、ルシウス君笑ってー。こっちに大好きなお兄ちゃんとお父様がいると思ってー」

 そんな掛け声の結果、それはもう大変素晴らしい笑顔の写真が撮れた。
 魔導写真機で撮影した映像は、専用の表面がつるっとした光沢紙に記録映像を魔力で焼き付けることで、写真という実物そのままの絵が出力できる。



 二匹目を作り終えた時点で朝食の時間になったのでギルドの建物に戻った。

 モーニングはいつもの定番ワカメスープと、海老のサラダ、メインは各自好きなものを焼いたり煮付けにしたり自由にオーダーできる。
 ルシウスは安定のデビルズサーモンをソテーしてもらって、ハーブのディル多めのオランデーズソースを。
 オヤジさんには大きめの切り身でお願いして、パンやご飯は断った。
 昼間、炭水化物を摂りすぎると午後眠くなることがあるので。
 今日はオブジェ作りに気合いを入れたいのだ。



 そして午後までお勉強をして、途中襲来してきたお魚さんモンスターを討伐。
 夕方また陽が落ちてきて昼間より気温が下がった頃を見計らい、砂浜に出て三匹目を作った。

 その三匹目は今日倒した……というより自重で勝手に自滅したマンボウを作った。

 マンボウにも脚は生えていたのだが、本体の魚自体が紙防御だったので、襲ってきたところをサッと横に避けたら、勝手に転んで勝手にお陀仏になってしまった。
 そして勝手に魔石に変わってしまった。

 謹んで『お魚さんモンスター最弱』の称号を進呈した。それがマンボウというお魚さんであった。

 張り切ったルシウスが作り直した砂のオブジェは三体分。
 どれも実物大で。
 そろそろ陽が暮れるという頃になって完成した三体目を前に記念撮影をパシャリ。

「フフフ。随分と格好良く作ったものねえ。これ、ココ村海岸の名物にしましょうよ。ルシウス君、魔法樹脂でしっかり固めて崩れないようにしてね」
「いいのかな? 邪魔にならない?」
「平気よう。砂の下の岩盤までずーっと固定して、満ち潮でも流されないようにしてね?」

 それとなーくハスミンはルシウスを誘導して、バッチリ砂のお魚さんオブジェを固めさせたのだった。

 計画通り!