飯マズ料理人を調査するといっても、現状だと隠密行動が取れるスキル持ちはサブギルマスのシルヴィスしかいない。
 本当に他国の諜報員や工作員だったら大問題だ。

 ギルドマスターのカラドンに報告し話し合った結果、飯マズ料理人を雇用した前任者たちにも確認を取り合うなど、通常業務そっちのけで取り掛かることになった。

 まず行ったのは、最寄りの内陸の町、ヒヨリ町に出て、履歴書やステータス鑑定書通りの食堂勤めしているかの調査だ。
 結果、該当する人物は就業していない。就業していた過去もない。

 また、ギルド周辺を地道に調査してみると、シフト日以外にも、あの飯マズ料理人はココ村海岸の周辺で姿が時折目撃されていた。
 そのときギルド職員や冒険者たちと交流することはなく、地元民に混ざって別の仕事をしている様子もなかったという。

 いよいよキナ臭くなってきた。

 そして相変わらず、週一シフトの男の料理は飯マズで、食堂の利用者たちを撃沈させている。

 気づけばもう8月に入っていた。
 ルシウスが6月にココ村支部にやってきてから二ヶ月弱だ。



「ケンはなあ……。あいつは週一しかココ村支部の厨房に入らないし、ギルド職員や冒険者たちとも交流しないからよ。これまで怪しいなんて思ったことなかったよな」

 髭面ギルマスのカラドンが、3階の執務室でご自慢の髭をいじりつつ呟いた。
 集まったのはサブギルマスのシルヴィス、受付嬢のクレア、そして数少ない常駐組の魔法剣士のルシウスと女魔法使いのハスミンだ。

「作る料理が不味いっていう苦情はありましたけども。でも調理スキル持ちの中にも飯マズの人はいるものですし、やっぱり週一ですからねえ」

 とは受付嬢のクレア。

「他国の工作員だったとしたら、ここココ村海岸のお魚さんモンスターの急激な大発生を引き起こした元凶の可能性もあるってこと?」
「現段階ではそこまで判断できねえな」

 そう、決定的な証拠がまだない。

「特にここ二ヶ月ほどは、お魚さんモンスターの数も減ってますしね」

 シルヴィスの指摘に、一同の視線がルシウスに向く。
 このお子さんの持つ聖なる魔力の影響があると見た。



「サイズも少しずつ小型化……したと思ったらまた大きくなってきちゃってるけど」

 今日も午前中、ココ村海岸の砂浜に大挙してきたお魚さんモンスター。
 今回は主に(ファイア)シュリンプだった。
 火の魔法を使う海老さんの魔物で、ルアーロブスターと同じように巨大で、たくさんの人間の脚が生えてて素早いやつだった。

 ポイズンオイスターと同じで、たくさんの普通の海老が集合合体して巨大化していたモンスターだったので、倒した後は食用の海老を大量ゲットである。
 今頃は厨房でいつもの料理人のオヤジさんが昼食用や夕食用の下拵えをしてくれているはずだ。



「悪いが、ケンが尻尾出すまでは臨時料理人は続行させる。皆、フォロー頼むぜ」

「「「「了解です」」」」

 飯マズに対応するため、日持ちする携帯食や袋入りの市販のパンや菓子類も仕入れる数を増やしている。
 飯マズ料理人に見つからない程度に、ルシウスも調理した料理を魔法樹脂に入れて、こっそり別の部屋にストックしておくようにした。

 他の冒険者たちや職員にはまだ隠している。
 いつもの料理人のオヤジさんにも内緒だが、彼の場合は元が気遣いの人なので何かしら微妙な空気を察知している様子を見せていた。