昼間、行商人が売りに来た旬のそら豆を、夕方より少し早い時間から厨房に入って下拵えし始めたルシウス少年。
そら豆は夜の酒の肴にするからと、ギルマスがザルに山盛り4枚分をお買い上げ。
手が空いている冒険者たちに手伝ってもらって、豆を鞘から出してもらうことにした。
「あっちこっちで豆が飛んでるー」
「あっ、逃げたー!」
「いやー掴めないー!!!」
受付嬢のクレアや女魔法使いのハスミンだ。
意外にもサブギルマスのシルヴィスが、豆を鞘から外すのが上手い。暗器使いとのことなので、手先が器用らしい。
ギルマスのカラドンや他の男の冒険者たちもあまり上手ではない。何なら鞘ごと中の豆を潰しかけていた。
「お酒飲む人たち、そら豆はどうやって食べるつもりだったの?」
「塩茹で一択」
「へえ、どこの国もお酒飲む人は好きだよね」
ルシウスのパパや、親しい王族の皆さんもそら豆の塩茹では案外好きだったような記憶がある。
ルシウスもパパのお膝に乗って、お酒を嗜む大人たちに混ざって剥いてもらったそら豆をもぐもぐしていたものだ。
非公式でプライベートのお食事会ではお行儀もさほどうるさく言われないし、普段聞けないここだけ話がたくさん飛び回ってて面白かった。
そら豆は、小さく切れ込みを入れてから大人たちの酒の肴用に塩茹で。
茹で上がった分に、気持ちちょっとだけ追加で塩を振った。酒飲みが多いなら塩気を足したほうが美味しくいただける。
残りは冷蔵庫に入っていたスープストックとミルクでポタージュに。
あとは厨房にあった海老や、昼前に捌いてあったデビルズサーモンと合わせてパスタにしてみた。
もうちょっと品数が欲しいところだったが、ルシウスの調理スキルのランクと経験では、ここまでが限界だった。
それでも、よく料理人のオヤジさんが作ってくれる醤油バター風味のパスタを味を思い出しながら作ってみたところ、これがまた絶品だったのである。
オリーブオイルとバターでニンニクスライスを炒めて香りを引き出したら、海老やサーモンを軽く焼き色が付くまで焼く。
後は醤油と、オヤジさんがよく使っている鰹節や昆布など海藻で取っただし汁を加え、あらかじめ皮を剥いておいたそら豆も入れて、茹で上がったパスタと絡めてお皿へ。
仕上げに黒胡椒をミルで荒めにガリゴリ削りかけて出来上がり。
お酒を飲まないルシウスや、すぐ食事したい勢にはパスタで、先に飲みたい勢にはパスタ抜きの炒め物で提供した。
お酒の締めに炭水化物を所望されるようなら、また別に作るつもりでいる。
厨房の中の生簀には活きたウニがいたから、そちらでまた別のパスタを作ってもいいかもしれない。
「同じ飯ウマ調理スキル持ちでも、オヤジさんとルシウス君は方向性が違いますねえ」
美味しい美味しいと、頬を染めながら受付嬢のクレアが醤油バターのそら豆入りパスタに相好を崩している。
いつもの料理人のオヤジさんの作る料理は、とにかく安定している。
どの国、どの地域出身の者でも美味しく食べられるよう味付けが工夫されていて、尖った個性がない代わりに、何を食べても間違いがない。
安定安心の飯ウマだ。
ルシウスのほうは、慣れないからか料理の見た目こそまだ微妙だが、調理時の匂いから期待が高まる料理を作る。
実際口に入れると一気に身体が緩んで顔が綻んでしまう。
そんな飯ウマである。
「ルシウスの調理スキルは中級だったな。この調子ならまだまだ上がるんじゃね?」
「ココ村支部にいる間に上級まで行けたりして」
有り得ない話ではなかった。
実際、いつもの料理人のオヤジさんが上級プラス持ち。
厨房で指南を受ければ可能性は高い。