ルシウスがランチに作ったのは、ベイクドサーモンのワンプレートものだった。

 丸いプレート皿にまずワカメご飯。
 その隣に茹でたじゃがいも、インゲン、ブロッコリーを添えたら、焼きたての分厚いベイクドサーモンをどんと。
 サーモンを焼いた後にフライパンに残った溶かしバターにレモンを絞り塩と水少々を足して、一煮立ちさせたガーリックバターソースをかけて、生ハーブのディルの葉を飾って出来上がり。
 あとは前日のうちに料理人のオヤジさんが作ってくれていたコンソメスープを。

「オヤジさんみたいに凝ったもの作れなくてごめんね。メニューもこれだけだし」
「いやいやいや。これだけ作れたら大したものだよ!」

 ルシウスが料理することになったきっかけの若手の冒険者グループのリーダーが、出来上がった料理のプレートを見て驚いている。

「お代わりたくさんあるからね。召し上がれ」

 ちょうど時刻は昼。
 ルシウスは自分の分の昼食は後回しにして、追加のサーモンを焼いたり、あと炊飯器にもう一台分のご飯を炊いたりしようと厨房へ戻っていった。

「いや、何ていうか……」
「本当に作ってしまいましたねえ」
「確かに簡単な料理ですけど……」

 炊いて茹でて混ぜて焼いた。
 どれも基本的な調理技法で、ココ村支部ではありふれた材料を使って作られたものだ。
 だが、すべて熱々できたてで、特にバターでカリッと焼き上げられたベイクドサーモンの食欲をそそる匂いときたら堪らない。

「飯ウマ持ちのごはん……いただきます!」



 そして一同、ベイクドサーモンのランチプレートに悶えた。

「うま! 意外性なんもない料理なのにうまー!!!」

 ここココ村支部の食堂は、知る人ぞ知る飯ウマ料理人の城だった。そう、いつもの料理人のオヤジさんのことだ。
 オヤジさんの料理も感動するぐらい美味なのだが、ルシウスが作った料理はまた別ベクトルの美味さがあった。

「あの大味のデビルズサーモンがこんなに風味豊かに……!」
「なぜだ。なぜ、茹でただけの野菜がこんなに味が濃いんだ!?」
「ガーリックのバターソース美味しい〜! ワカメご飯にちょっと垂らして食べてもいける!」
「ていうか、ワカメご飯うま! 俺、米ってあんまり好きじゃなかったけどこれは美味い!」

「ご飯はまだまだあるよ。次も炊いてるからお代わりは各自でよそってね」

 厨房からワゴンで、大型の炊飯器と、しゃもじを浸けた水入りの容器をルシウスが引いてきた。
 いつも料理人のオヤジさんが主食をライスにした日にやってるスタイルだ。
 テーブル席の近くにワゴンを置いておけば、追加で食べたい人は食べたいだけ盛ることができる。

 他にも木のボウルに入れた山盛りの茹で野菜、そして次々と焼き上げたベイクドサーモンとバターソースも、トングやスプーンと一緒にワゴンに載っけていく。
 あとはセルフ方式で。調味料などで味変したい人は壁際に塩胡椒やドレッシング、ソースその他がある。



「ルシウス、もう大丈夫だろ、ありがとさん。お前も飯にしようぜ」
「うん。その前にフライパンだけ汚れ、簡単に落としてくるね」

 ルシウスの分のランチプレートを確保しておいてくれたギルマスのカラドンが声をかけてくれた。
 だが、バターを使ったフライパンだけ簡単に油分を拭うため一度厨房に戻ることに。
 バターの油は冷めると固まってしまうので、その前にペーパーで拭っておくと後片付けが楽なのだ。
 調理スキル持ちのパパからの教えである。
 騎士団の野営のとき、飯ウマ持ちの父メガエリスは調理担当や監修を請われることが多い。鍋やフライパンなどのお手入れ知識や技術もお手のものである。



「お皿洗いは私たちがやりましょうか」

 手際よく料理してくれたとはいえ、片付けまでやらせてしまっては、さすがに申し訳ないとサブギルマスのシルヴィスが苦笑している。

「もちろんですよー!」

 他の面々も頷いたところで、それは来た。



「このクソガキ! 何でてめえが厨房に入ってんだよ!」

 今日は急用で休んだはずの臨時調理人が厨房の裏口から入ってきたのだった。