「え、ええと……ルシウス君。宿の手配なんかは済ませてあるの?」
「僕、そういう細かい話なーんにも聞いてないです。手持ちも全然ないんだけどどうしたらいいですか?」
「な、何てこと……!」

 見ればルシウス少年は、見るからに良家の子息風の格好。
 武器も防具も何も持っていない。
 その辺はギルドの備品を貸し出しすれば良いとして、寝起きする場所はどうするか。

「どっちにしろ、十四歳の未成年じゃ町まで戻っても宿は借りられねえだろ。仕方ねえ、二階の宿直室を貸してやるよ」

 と髭面ギルドマスターのお言葉である。



 冒険者ギルドは、どこも冒険者たちがすぐ見つけられるよう、建物の外観は同じ赤レンガの三階建てになっている。

 内部の設備もほぼ同じだ。
 一階は受付と依頼掲示板、武器防具や備品など冒険者活動に必要な物品の売店、討伐品の売却・換金所、食堂や酒場がある。
 ここ、ココ村支部は食堂がひとつ、酒場を兼ねている。
 二階は会議室とギルド職員の仕事場と休憩所を兼ねた宿直室、三階はギルドマスターら支部の責任者の執務室と倉庫だ。



 受付嬢は、今日からしばらくルシウス少年が寝起きすることになる二階の宿直室に案内しながら、申し訳なさそうに言った。

 部屋にはベッドが一台と、小さなテーブルと椅子が二脚。
 休憩室を兼ねているから簡単な給湯設備と、荷物置き場になっている棚がひとつ。

「ここなんだけど。狭くてごめんね、大丈夫?」
「平気だよ。ここよりもっと狭い部屋で寝起きしてたこともあるもの」

 ちょっと前まで自分の家は貧乏だった。
 そう言って朗らかに笑うルシウス少年。

(だ、大丈夫なのかしらこの子? 変な大人にだまされてるんじゃ……)

 一応、先ほど一緒にやってきた騎士は正規のアケロニア王国の王立騎士団の騎士だったし、記章も間違いなく、本人が持ってきた書状にも玉璽が捺されていた。
 彼自身、侯爵という高位貴族で使者として文句なしではあった。

 ちなみに、変な大人ではなかったが、策略家の大人たちに騙されて送り込まれてきたのがルシウス少年だ。
 受付嬢の心配はそう的外れなものでもなかった。