ルシウスはまず、自分の故国であるアケロニア王国のことから説明していった。
ルシウスの故郷、アケロニア王国の先王ヴァシレウス大王は近年稀に見る傑物で、円環大陸の中央にある神秘の“永遠の国”から大王の称号を授けられた偉大な王様だった。
永遠の国はハイヒューマン、人類の上位種たちの国で、名目上、円環大陸のすべての国を統括していると言われている。
あまり実態が知られていない謎の国なのだが、世界各国の教会や神殿、それに冒険者ギルドなどの本部があるのはこの国の中だ。
人々や国に対して、名誉称号を時折授与することで知られている。
ステータスに自然に発生したり、修練によって獲得するスキルとは比べ物にならないほど価値のある称号を。
アケロニア王国の王族は勇者の子孫と言われていて、心ある優れた王が代々即位することで有名だ。
ヴァシレウス大王も若い頃はともかく、年老いた現在では穏やかで優しいおじいちゃんだった。
しかし、そんな彼を激怒させたことがある。
それが、最初の子供だったクラウディア王女様が嫁入りしたタイアド王家の、彼女への仕打ちだ。
クラウディア王女様は今の王様テオドロスのお姉さんで、グレイシア王女様の伯母にあたる。
故人だ。
クラウディア王女様は13歳でタイアド王国の当時の王太子に輿入れした。
タイアド王国での成人年齢は16歳。
さすがに早すぎる結婚だが、当時険悪だった両国の関係を取り持つための婚姻だったので、無理やり早めに結婚させたという経緯があった。
実際には嫁入り先のタイアド王国の成人年齢に達してから正式な婚姻の儀を挙げましょうね、という国同士の取り決めを行っての輿入れだった。
そして翌年、クラウディア王女様は十四歳で出産。
子供は男の子だったが一ヶ月で亡くなってしまった。
父王のヴァシレウス大王にその話が届いたのは、赤ん坊が亡くなった後のことである。
「妊娠も出産もなーんにも知らされなかったんだよね、うちの国。アケロニアとタイアドは間に他国があるとはいえ、同じ北西部にあるのにさ」
苦々しくルシウスが顔を歪めた。
この話を、ルシウスは当事者のヴァシレウスやその友人である父メガエリスから兄と一緒に聞かされていた。
さすがに王族や高位貴族の一部しか知らない話で、アケロニア王国の国内でも一般には流布していない話だった。
あまりにも、酷い話なので。
「え、いや、ちょっと待って。13歳で嫁入りして翌年十四歳で出産……?」
「そ。16歳の成人年齢になってちゃんと結婚式挙げるまで手を出しちゃ駄目だぞって国同士で取り決めてたのに、相手の王太子が押し倒しちゃったんだよね」
野蛮だよね、信じられないよね、とルシウスが憤慨している。
「待って……ほんと待って、うちの娘もいま13歳なんだけど、その歳で……ええええ!?」
「タイアドの王太子、マジ鬼畜。許すまじ」
「……確かに酷いな」
「もうとっくに王様になって今は退位しちゃってるけどねー」
ちなみにそのクラウディア王女様は、その後しばらくしてもうひとり王子を産んですぐに亡くなってしまった。二十代の早いうちに。
どう考えてもろくな扱いをされていなかったことが明らかである。
「まだ大人になりきれないうちに子供を産まされた最初の出産のときに、身体を壊しちゃってたんだと思う」
一番最初に儲けた、思い入れのある王女様をあまりにも早くに亡くしてしまったヴァシレウス大王。
それはそれは深く悲しみ、以来ずっとタイアド王家を憎んでいる。
だからアケロニア王国にとってのタイアド王国とは、同盟国とは名ばかりの敵性国家だ。
このことを、アケロニア王国では騎士団の将校になると必ず幹部実習で習う。
なぜ、アケロニア王国では成人貴族が全員、問答無用で軍属にさせられるかの理由だからだ。
いつでも敵性国家タイアド王国と戦争できるように、である。
ルシウスはヴァシレウス本人から「あのとき何で王太子をぶち殺しに行かなかったのか。今でも後悔している」と何度も聞かされたことがある。
具体的には当時、アケロニア王国側で別の国と小競り合いがあり、タイアドに割くためのリソースがなかった。
間が悪かったのだ。
それに、亡くなるまでの数年間の間に、クラウディア王女本人が何度も父親のヴァシレウス大王に対して両国の仲を取り持つ書簡を故国に送り続けていた。
彼女は険悪だった両国の間を結ぶためタイアド王国に輿入れしているのだ。
最後まで自分の使命を忘れなかった賢女でもあった。
ルシウスの故郷、アケロニア王国の先王ヴァシレウス大王は近年稀に見る傑物で、円環大陸の中央にある神秘の“永遠の国”から大王の称号を授けられた偉大な王様だった。
永遠の国はハイヒューマン、人類の上位種たちの国で、名目上、円環大陸のすべての国を統括していると言われている。
あまり実態が知られていない謎の国なのだが、世界各国の教会や神殿、それに冒険者ギルドなどの本部があるのはこの国の中だ。
人々や国に対して、名誉称号を時折授与することで知られている。
ステータスに自然に発生したり、修練によって獲得するスキルとは比べ物にならないほど価値のある称号を。
アケロニア王国の王族は勇者の子孫と言われていて、心ある優れた王が代々即位することで有名だ。
ヴァシレウス大王も若い頃はともかく、年老いた現在では穏やかで優しいおじいちゃんだった。
しかし、そんな彼を激怒させたことがある。
それが、最初の子供だったクラウディア王女様が嫁入りしたタイアド王家の、彼女への仕打ちだ。
クラウディア王女様は今の王様テオドロスのお姉さんで、グレイシア王女様の伯母にあたる。
故人だ。
クラウディア王女様は13歳でタイアド王国の当時の王太子に輿入れした。
タイアド王国での成人年齢は16歳。
さすがに早すぎる結婚だが、当時険悪だった両国の関係を取り持つための婚姻だったので、無理やり早めに結婚させたという経緯があった。
実際には嫁入り先のタイアド王国の成人年齢に達してから正式な婚姻の儀を挙げましょうね、という国同士の取り決めを行っての輿入れだった。
そして翌年、クラウディア王女様は十四歳で出産。
子供は男の子だったが一ヶ月で亡くなってしまった。
父王のヴァシレウス大王にその話が届いたのは、赤ん坊が亡くなった後のことである。
「妊娠も出産もなーんにも知らされなかったんだよね、うちの国。アケロニアとタイアドは間に他国があるとはいえ、同じ北西部にあるのにさ」
苦々しくルシウスが顔を歪めた。
この話を、ルシウスは当事者のヴァシレウスやその友人である父メガエリスから兄と一緒に聞かされていた。
さすがに王族や高位貴族の一部しか知らない話で、アケロニア王国の国内でも一般には流布していない話だった。
あまりにも、酷い話なので。
「え、いや、ちょっと待って。13歳で嫁入りして翌年十四歳で出産……?」
「そ。16歳の成人年齢になってちゃんと結婚式挙げるまで手を出しちゃ駄目だぞって国同士で取り決めてたのに、相手の王太子が押し倒しちゃったんだよね」
野蛮だよね、信じられないよね、とルシウスが憤慨している。
「待って……ほんと待って、うちの娘もいま13歳なんだけど、その歳で……ええええ!?」
「タイアドの王太子、マジ鬼畜。許すまじ」
「……確かに酷いな」
「もうとっくに王様になって今は退位しちゃってるけどねー」
ちなみにそのクラウディア王女様は、その後しばらくしてもうひとり王子を産んですぐに亡くなってしまった。二十代の早いうちに。
どう考えてもろくな扱いをされていなかったことが明らかである。
「まだ大人になりきれないうちに子供を産まされた最初の出産のときに、身体を壊しちゃってたんだと思う」
一番最初に儲けた、思い入れのある王女様をあまりにも早くに亡くしてしまったヴァシレウス大王。
それはそれは深く悲しみ、以来ずっとタイアド王家を憎んでいる。
だからアケロニア王国にとってのタイアド王国とは、同盟国とは名ばかりの敵性国家だ。
このことを、アケロニア王国では騎士団の将校になると必ず幹部実習で習う。
なぜ、アケロニア王国では成人貴族が全員、問答無用で軍属にさせられるかの理由だからだ。
いつでも敵性国家タイアド王国と戦争できるように、である。
ルシウスはヴァシレウス本人から「あのとき何で王太子をぶち殺しに行かなかったのか。今でも後悔している」と何度も聞かされたことがある。
具体的には当時、アケロニア王国側で別の国と小競り合いがあり、タイアドに割くためのリソースがなかった。
間が悪かったのだ。
それに、亡くなるまでの数年間の間に、クラウディア王女本人が何度も父親のヴァシレウス大王に対して両国の仲を取り持つ書簡を故国に送り続けていた。
彼女は険悪だった両国の間を結ぶためタイアド王国に輿入れしているのだ。
最後まで自分の使命を忘れなかった賢女でもあった。