「な、七日も馬車に乗るとか聞いてないよう……」

 よろよろと、ルシウスは馬車から這い出してきた。

 走り続けた馬車が一日二回の休憩を挟んで進み続け止まった頃には、騙し討ちのように馬車に乗せられたルシウスにも諦めがついていた。

 王家が用意してくれただけあって馬車の乗り心地は良かった。
 しかし、道があるとはいえ七日間も走り続けてすっかりお尻が痛い。
 途中、護衛の騎士に何度も「馬に乗りたい」と訴えたのだが、逃亡の防止のため聞き入れられなかった。

(失礼しちゃう。いくら僕だって、あの王女様の命令に逆らうほど命知らずじゃないよ)

 幼い頃からの付き合いで、悪戯が見つかるとよく拳骨を食らっていたものだ。あれは痛い。



「わあ、海がある!」

 白い砂浜の先に、真っ青な海が広がっている。

 目を輝かせてルシウスは砂浜へ駆けた。
 さくっ、とブーツの足が砂の中に沈む。
 ふわーと、風に乗って潮風がルシウスの鼻腔をくすぐる。
 空気も爽やかでとても良い。自然の多い素敵な場所だ。

 海だ。それもすごく綺麗な海!

「おーいルシウス! 荷物下ろすの手伝ってくれー」
「はーい」

 よい子のお返事で、たたたっと馬車に戻って、たくさん積まれた物資を下ろす手伝いをした。
 量は多いが魔力持ちなら身体強化を使えば一気にたくさん運べる。
 荷物は海岸沿いの少し高台にある、赤レンガの三階建て建物に運ぶ。

 冒険者ギルドだ。



「アケロニア王国より参りました、ホーライル侯爵カイムと申します。我が国の王女殿下より支援物資をお持ち致しました!」

 入口で赤茶の髪の護衛騎士が声を張り上げると、受付の奥から髭面の大男が飛び出してきた。

「アケロニア王国だって!?」
「如何にも。こちら、冒険者ギルドのゼクセリア共和国ココ村支部宛の支援物資と人材のお届けです」

 説明を聞いて、強面のギルドマスターはホッと緊張を解いた。

「そ、そうですか、まさかこんなに早く来られるとは……ホーライル卿、ひとかどの騎士とお見受けする。貴殿のような方が手助けしてくれるなら心強い限りだ」
「あ、いえ、私はただの護衛なので。こちらの支部への助っ人要員は彼です」

 手で示された先には。軍服姿の護衛騎士の身体に隠れるようにして半身を覗かせている、小柄な青銀の髪の少年がいた。

「ルシウス・リーストです。魔法剣士だよ、よろしくね!」

 初めのご挨拶はしっかりと。元気よく。

「……ホーライル卿」
「みなまで申されるな、ギルドマスター。だが、あなたがたを失望はさせないだろう。……多分」
「ふ、不安しかないのですが!?」


(これどう見ても未成年じゃん!?)

(仕方ねえんですよ、うちの王女様がこいつ連れてけって言ったんだから!)

(もうちょっとこう、年上の奴はいなかったんですかい!? こんな可愛い少年を荒くれ者揃いの冒険者ギルドに寄越すって、あんたたちの王女様は鬼か!)

(元はこいつの兄貴が来るはずだったんだけど、……新婚でさ。代役、代役だから! すぐ兄貴の方と変わるから、それまで面倒見てやってくださいよ!)


「ちょっとそこ、そこの二人! 聞こえてるからね、全然ヒソヒソ声になってないからね!?」

 せっかく来たのに、まったく期待されてない感が半端なかった。