冒険者からセクハラを受けた、いたいけなルシウスを慰めようとした女性陣の受付嬢クレアや女魔法使いハスミン。
だが当の本人は何でもないというように笑っていた。
ルシウスの実家のおうち、リースト伯爵家は一族みなとても麗しい容貌をしていることで知られているそうだ。
青銀の髪、綺麗な湖面の水色の瞳など、派手な外見の持ち主のためか、男女の区別なくものすごくモテるという。
同じくらい、良くない意味で揶揄われることも多い一族だという。
なので、いざというときの対処方法は子供の頃からしっかり周囲の大人たちから教え込まれているそうなのだ。
「舐められたら終わりだって習ってるよ。いやらしいことしてくる大人はその場で潰せって」
「な、ナニを!?」
「いやらしいことしたくなるトコを!」
持っていたジュースのグラスを思いっきり握りしめる。
ミシィッと軋んだ音をたてたので慌てて力を抜く。
そうだ、何といってもルシウスは魔法剣士。魔力を使って身体強化の術を使えば、男の下半身の剣を引っこ抜いたり潰したりぐらいは朝飯前。そういう存在だった。
なかなか面白い話だったので、ギルマスや他の冒険者たちも食堂でルシウスの周りに集まって、詳しく聞いてみることにした。
今後の参考のために。いろいろと。
「僕の父様は筋肉ムキムキでお髭まであるおじいちゃんなのに、いまだにモッテモテ。女の人にも男の人にも」
モテすぎて奥さん、つまりルシウスの母親が怒ったので、中年期の後半から髭を生やし始めたらしい。
しかし髭ぐらいでは麗しのリースト伯爵の美貌は隠せなかったようで、騎士団内でもちょっと油断すると筋骨隆々の騎士たちが「閣下、お慕いしておりましたあッ」と告白してくるし、王宮を歩けば侍女や女官たちから秋波を送られ、匿名のラブレターや贈り物で騎士団のロッカーはいつも溢れていたそうだ。
そういう環境だったので、麗しのモテ男メガエリスそっくりの息子ルシウスもその兄も、護身術は徹底的に学ばされている。
「護身術はね、王女様のおじい様にたくさんコツを教えてもらったんだよ! 王女様のおじい様も、若い頃はお色気がすごかったから変なのに絡まれやすかったんだって」
「お、おい、アケロニア王国の王女様のおじい様って……」
「ヴ、ヴァシレウス大王かよおお!」
たくさんのすごい偉業を成し遂げたアケロニア王国の先代国王で、円環大陸唯一の“大王”の称号持ちだ。
王族にランクがあるとすれば、大王は王の上位職ともいえる。
今、世界中に大王の称号持ちは彼しかいない。
そんな生ける伝説がルシウスのお国の先王陛下だった。
ルシウスにとっては、いつもお高いチョコレートを分けてくれる、抱っこ好きのおじいちゃんだったけれども。
「迫ってくる女の人には期待を持たせないよう上手くあしらって、男の人は二度と少年を襲おうとしないようメスオチするまで調教したって。……メスオチってなあに?」
「ちょっとー! ヴァシレウス大王、こんな子供に何教えてんのー!??」
女魔法使いのハスミンが悲鳴をあげた。
しかしちょっと楽しそうだ。下ネタはわりと好きなタイプと見た。
「辞書に載ってるかな?」
「おやめなさい! 載ってません!」
いつも勉強に使わせてもらっているギルド備品の辞書に手を伸ばそうとしたルシウスの横から、慌ててサブギルドマスターのシルヴィスが辞書を取り上げた。
周りの大人たちはあまりのルシウスの無知さに呆れている。
確かになりは小さいが、十四歳ならもっとお色気ごとに興味津々でもおかしくないはず。
とりあえず大人たちを代表してハスミンが突っ込んでみた。
「ルシウス君さあ。貴族ならその手の性教育って受けてるんじゃないの?」
「性教育……学校ではあったよ」
「ちゃんと勉強した?」
「……恥ずかしくて、クラスの子たちと紙飛行機飛ばして遊んでた」
頬を染めて、もじもじと左右の指を突き合わせている。
あ、これダメなやつだ、と皆悟った。
そうはいっても荒くれ者の出入りの多い冒険者ギルドにいれば、そのうち学んでいくだろうけれども。
このルシウス少年、なかなか賢いのだが、故郷の学園での勉強の成績はギリギリ中の下ぐらいだったようで、ココ村支部にやってきてからというもの学園の担任教師から定期的に学習参考書が送られてくる。
ココ村支部はルシウスの課題の進捗を管理するよう依頼されていた。
「こりゃ、保健体育の懸念事項として先生に報告上げといたほうがいいかもなあ……」
ご自慢の髭を引っ張りながら、ギルマスのカラドンが呟いた。
このココ村支部に常駐している限り、お色気的な意味で大人たちの餌食にさせるつもりは毛頭ないが、ちょっと本人に危機感が足りない気はしている。
ちなみに、悪戯されたルシウスが犯人をお仕置きしたこの日以降、ギルド内の武器防具の売店では男性向けの股間プロテクターがよく売れたそうだ。
翌日、ルシウスにお仕置きされた冒険者の男が、その股間プロテクターを装備して見せに来た。
「ふはははは! 見ろ! これでちょっとやそっとの衝撃など恐るるに足らず!」
「ふーん」
ルシウスは極寒の据えた目になった。
そして無言で屋外の解体場に行って、分厚い木の板と金属板を持ってまた食堂に戻ってきた。
「はい、皆さんご注目!」
「え、ルシウス君、なになに〜?」
ギルド職員や冒険者たちの視線がほどほどに集まったところで。
バキィッ
身体強化も何も施していない拳で、まず木の板を叩き割った。
「次はこっちね!」
今度は股間プロテクターを買ったと自慢げに言っていた冒険者に、腰の辺り、というか股間の辺りで金属板を持たせた。
「いっくよー。せーの!」
ルシウスは脚全体に魔力を込めた。
ネオンブルーに輝く魔力が膝の辺りに集積する。
メキョッ
金属板はルシウスの小さな膝の形に大きく窪みを作った。
「「「………………」」」
見物していた一同、無言である。
「で、その股間プロテクターとやらは、木の板や金属板より丈夫なわけ?」
「い、いや、それは」
「試してみる?」
金属板を蹴り上げたまま、ぷらーんと宙に浮かせて揺らしたままの自分の膝を指差した。
このお子様、体幹が鍛えられているようで、片足立ちしていても体勢が安定している。
じーっと湖面の水色の瞳で見つめられて、冒険者の男は冷や汗を流した。
やばい。また潰される。今度は股間プロテクターごと!
「僕の蹴りを防ぎたかったら、オリハルコン製の股間プロテクターでも持ってこーい!」
「は、はいいい一、すいませんでしたルシウス様ー!」
とりあえず、変な手出しすると物理的に潰されることはみんな理解した。
ちなみにルシウスに悪戯した冒険者グループは、へこんだ金属板を二度見、三度見すると青ざめて、その日のうちにココ村支部を後にした。
その後、彼らが他の支部でセクハラ被害を起こしたと聞くことはなかったそうな。
だが当の本人は何でもないというように笑っていた。
ルシウスの実家のおうち、リースト伯爵家は一族みなとても麗しい容貌をしていることで知られているそうだ。
青銀の髪、綺麗な湖面の水色の瞳など、派手な外見の持ち主のためか、男女の区別なくものすごくモテるという。
同じくらい、良くない意味で揶揄われることも多い一族だという。
なので、いざというときの対処方法は子供の頃からしっかり周囲の大人たちから教え込まれているそうなのだ。
「舐められたら終わりだって習ってるよ。いやらしいことしてくる大人はその場で潰せって」
「な、ナニを!?」
「いやらしいことしたくなるトコを!」
持っていたジュースのグラスを思いっきり握りしめる。
ミシィッと軋んだ音をたてたので慌てて力を抜く。
そうだ、何といってもルシウスは魔法剣士。魔力を使って身体強化の術を使えば、男の下半身の剣を引っこ抜いたり潰したりぐらいは朝飯前。そういう存在だった。
なかなか面白い話だったので、ギルマスや他の冒険者たちも食堂でルシウスの周りに集まって、詳しく聞いてみることにした。
今後の参考のために。いろいろと。
「僕の父様は筋肉ムキムキでお髭まであるおじいちゃんなのに、いまだにモッテモテ。女の人にも男の人にも」
モテすぎて奥さん、つまりルシウスの母親が怒ったので、中年期の後半から髭を生やし始めたらしい。
しかし髭ぐらいでは麗しのリースト伯爵の美貌は隠せなかったようで、騎士団内でもちょっと油断すると筋骨隆々の騎士たちが「閣下、お慕いしておりましたあッ」と告白してくるし、王宮を歩けば侍女や女官たちから秋波を送られ、匿名のラブレターや贈り物で騎士団のロッカーはいつも溢れていたそうだ。
そういう環境だったので、麗しのモテ男メガエリスそっくりの息子ルシウスもその兄も、護身術は徹底的に学ばされている。
「護身術はね、王女様のおじい様にたくさんコツを教えてもらったんだよ! 王女様のおじい様も、若い頃はお色気がすごかったから変なのに絡まれやすかったんだって」
「お、おい、アケロニア王国の王女様のおじい様って……」
「ヴ、ヴァシレウス大王かよおお!」
たくさんのすごい偉業を成し遂げたアケロニア王国の先代国王で、円環大陸唯一の“大王”の称号持ちだ。
王族にランクがあるとすれば、大王は王の上位職ともいえる。
今、世界中に大王の称号持ちは彼しかいない。
そんな生ける伝説がルシウスのお国の先王陛下だった。
ルシウスにとっては、いつもお高いチョコレートを分けてくれる、抱っこ好きのおじいちゃんだったけれども。
「迫ってくる女の人には期待を持たせないよう上手くあしらって、男の人は二度と少年を襲おうとしないようメスオチするまで調教したって。……メスオチってなあに?」
「ちょっとー! ヴァシレウス大王、こんな子供に何教えてんのー!??」
女魔法使いのハスミンが悲鳴をあげた。
しかしちょっと楽しそうだ。下ネタはわりと好きなタイプと見た。
「辞書に載ってるかな?」
「おやめなさい! 載ってません!」
いつも勉強に使わせてもらっているギルド備品の辞書に手を伸ばそうとしたルシウスの横から、慌ててサブギルドマスターのシルヴィスが辞書を取り上げた。
周りの大人たちはあまりのルシウスの無知さに呆れている。
確かになりは小さいが、十四歳ならもっとお色気ごとに興味津々でもおかしくないはず。
とりあえず大人たちを代表してハスミンが突っ込んでみた。
「ルシウス君さあ。貴族ならその手の性教育って受けてるんじゃないの?」
「性教育……学校ではあったよ」
「ちゃんと勉強した?」
「……恥ずかしくて、クラスの子たちと紙飛行機飛ばして遊んでた」
頬を染めて、もじもじと左右の指を突き合わせている。
あ、これダメなやつだ、と皆悟った。
そうはいっても荒くれ者の出入りの多い冒険者ギルドにいれば、そのうち学んでいくだろうけれども。
このルシウス少年、なかなか賢いのだが、故郷の学園での勉強の成績はギリギリ中の下ぐらいだったようで、ココ村支部にやってきてからというもの学園の担任教師から定期的に学習参考書が送られてくる。
ココ村支部はルシウスの課題の進捗を管理するよう依頼されていた。
「こりゃ、保健体育の懸念事項として先生に報告上げといたほうがいいかもなあ……」
ご自慢の髭を引っ張りながら、ギルマスのカラドンが呟いた。
このココ村支部に常駐している限り、お色気的な意味で大人たちの餌食にさせるつもりは毛頭ないが、ちょっと本人に危機感が足りない気はしている。
ちなみに、悪戯されたルシウスが犯人をお仕置きしたこの日以降、ギルド内の武器防具の売店では男性向けの股間プロテクターがよく売れたそうだ。
翌日、ルシウスにお仕置きされた冒険者の男が、その股間プロテクターを装備して見せに来た。
「ふはははは! 見ろ! これでちょっとやそっとの衝撃など恐るるに足らず!」
「ふーん」
ルシウスは極寒の据えた目になった。
そして無言で屋外の解体場に行って、分厚い木の板と金属板を持ってまた食堂に戻ってきた。
「はい、皆さんご注目!」
「え、ルシウス君、なになに〜?」
ギルド職員や冒険者たちの視線がほどほどに集まったところで。
バキィッ
身体強化も何も施していない拳で、まず木の板を叩き割った。
「次はこっちね!」
今度は股間プロテクターを買ったと自慢げに言っていた冒険者に、腰の辺り、というか股間の辺りで金属板を持たせた。
「いっくよー。せーの!」
ルシウスは脚全体に魔力を込めた。
ネオンブルーに輝く魔力が膝の辺りに集積する。
メキョッ
金属板はルシウスの小さな膝の形に大きく窪みを作った。
「「「………………」」」
見物していた一同、無言である。
「で、その股間プロテクターとやらは、木の板や金属板より丈夫なわけ?」
「い、いや、それは」
「試してみる?」
金属板を蹴り上げたまま、ぷらーんと宙に浮かせて揺らしたままの自分の膝を指差した。
このお子様、体幹が鍛えられているようで、片足立ちしていても体勢が安定している。
じーっと湖面の水色の瞳で見つめられて、冒険者の男は冷や汗を流した。
やばい。また潰される。今度は股間プロテクターごと!
「僕の蹴りを防ぎたかったら、オリハルコン製の股間プロテクターでも持ってこーい!」
「は、はいいい一、すいませんでしたルシウス様ー!」
とりあえず、変な手出しすると物理的に潰されることはみんな理解した。
ちなみにルシウスに悪戯した冒険者グループは、へこんだ金属板を二度見、三度見すると青ざめて、その日のうちにココ村支部を後にした。
その後、彼らが他の支部でセクハラ被害を起こしたと聞くことはなかったそうな。