お魚さんモンスターが来ない暇なときに限って、冒険者たちが増えるものだ。
ギルドの利用者が増えると、その分だけたちの悪い者も来るようになる。
食堂で配膳の手伝いをしていたルシウス少年は、最近見るようになった二十代後半の冒険者パーティーのテーブルの横を通り過ぎるとき呼び止められた。
「おーい、お嬢ちゃん。こっちにもランチ定食みっつー!」
「わああっ!??」
むにっ
と揉まれた。
何を?
尻をだ!
「おい! 僕の尻は安くはないぞ!?」
「おう、ならいくらならヤらせてくれるんだ、お嬢ちゃんよう」
「お嬢ちゃんだとお……?」
足を組んでニヤニヤ笑っている男たちを見上げる。
ちらっと食堂内を見回す。
こういうときに限ってギルドの職員も、いつも気怠げにお茶を飲んでる女魔法使いのハスミンもいない。
料理人のオヤジさんは調理に集中していてこちらを見ていない。もうー。
「お嬢ちゃんだろ。こーんな可愛い顔し……テェッ!?」
わざわざ立ち上がって頭を撫でて来ようとした男に素早く足払いして、これまたさらに素早く腹部に蹴りを入れた。
男はルシウスに向けて両脚をおっ広げて背中から床に倒れ込む。
「!???」
げしっ
そのまま悶絶して倒れた男の股間をブーツの足裏で踏み付ける。
「ふーん。いくらなら出せるの? ちなみに僕んちはちょっと前までは貧乏だったけど、今は持ち直してなかなかのものだよ。ちょっとやそっとの端金じゃ許してあげないからね?」
ぐりっ
小柄な少年のはずなのに、倒れた男を見下ろす瞳は冷たく凍えている。
そしてその小さな身体から放たれる威圧感ときたら。
同じテーブル席にいた男の仲間も呆気に取られていた。
「あ、足をどけろォッ!」
「ん。潰されることをお望み、と」
ぐりぐりっ
「ま、待て、話し合おおおうッ!」
「話し合いもクソもないのにお尻触られた僕の立場がないんだけど?」
ぐりぐりぐりいいっ
「あっ、や、やめ……っ、アーッ!」
「お前ら、次やったら出入り禁止な」
ルシウスに股間を踏み潰された男は、髭面ギルドマスター、カラドンのお説教を食らった後でココ村支部を出入り禁止処分の警告を通告された。
ギルド本部に問い合わせてみると、他の支部でも職員や女性冒険者たちへのセクハラ騒ぎを起こしている常習犯だという。
「次に似たようなトラブル起こしたら冒険者ランク二段階落ちだからな。覚えとけー」
Bランクだから次にやらかしたらDまで落ちる。初心者さんランクだ。
そもそも、円環大陸全土で、未成年への手出しは犯罪として重い刑罰を規定している国が多いのだ。
「ったく、子供に変なことするんじゃありません!」
この子供に何かあったら、本国から 過保護なパパが飛んできちゃうじゃん。
魔法剣をぶっ放す元魔道騎士団の団長様だ。絶対怖いおじさんが来るに決まっている。
このルシウスの父親なら仕事できる系の冷徹溺愛パパに違いない。
実際は愉快な溺愛系髭ジジなのだが、カラドンが実態を知ることは結局ないまま終わるのが残念なところだった。