リースト伯爵家のカイルとルシウス兄弟の母方の叔父が、長男の嫁ブリジットを急に訪ねてきたのは、ルシウスがおうちにルアーロブスターを送ってくる少し前のことだった。

 先触れもなくやって来た親戚に家人たちは慌てていたが、ブリジットは会ってみようと思った。
 一応夫の叔父で、自分たちの結婚式にも参列してくれた人物だからだ。

 義父のメガエリスが不在のときを狙ってやってきた中年男性は、兄弟と似たところはなかった。
 カイルやルシウスは完全に父方の容貌なのだろう。

(あらー。この人が例の、兄弟仲を拗らせるようカイル様を唆した叔父様なのね)

 確かに底意地の悪い性格の男のようだ。
 だが不思議なことに、夫カイルはこの母方の叔父に懐いていると義父から教えられていた。

 話を聞いてみると、穏やかなブリジットでもかなりきつい人物だった。
 思い込みが激しく、他者否定が激しい。

 それでも表面上、この夫の叔父の話を微笑みながら聴き続けたブリジット。

 そしてまだ来訪一回目だったが、もういいかなとと思えたので相手と同じことをしてみることにした。
 つまり、陰口だ。
 もちろんブリジットも貴族家の出身令嬢なので、品性を落とすようなやり方ではない。
 あくまでも、新妻が夫におねだりする形で、だ。



「ねえ、あなた。私、あの叔父様ちょっと怖いですわ」
「え、どういうことだい、ブリジット?」

 夜、帰宅して夕食や入浴を済ませ、夫婦の秘密の時間を過ごしてまったりした空気の流れる中。
 麗しの旦那様の腕の中でブリジットはそう訴えた。

「あの方、あなたのことをとても大切に思って、私にあれこれ助言してくださいましたの。でも、その……」
「な、何かあったのかい?」

 ここはちょっと溜めを作って。
 すると、カイルが慌てたようにブリジットの様子を窺ってくる。
 そう、この旦那様はブリジットにベタ惚れなのだ。あまり外では態度に出してくれないけれど、夫婦だけの時間は別だ。

「私の家族のことを……その、悪く仰って。確かに私は家格が下の子爵家からこのリースト伯爵家に嫁いできましたけど。……ごめんなさい。あなたと親しい叔父様なのに困らせてしまったわね」

 俯きがちに、ちょっと目尻を押さえるのがポイントだ。
 ちなみに夫の叔父がブリジットの実家の悪口を言っていたことは事実である。
 その何倍も、彼曰く『メガエリスの不義の子ルシウス』を罵っていたのだが。

(ルシウス君だってもう私の大事な家族ですよ。あんなこと私の旦那様に言い続けていたなんて、信じられない)

 毒吐きさんとはお付き合いしたくないものだ。
 さて、ブリジットの大事な旦那様はどう出るか?
 カイルはしばらく考え込んでいたが、意を決したように頷いた。

「そんなことが……いや、叔父なら言いそうなことだ。……わかった。もうこの家には出入り禁止にする。君を悲しませたことは許せないことだ」
「あなた」

 ストライク!
 ブリジットは毒吐き系の親戚を追い出すことに成功した。