さて、ルシウスが魔法樹脂に封入したルアーロブスターだが、生きた一匹丸ごとのままでは明日、料理人のオヤジさんが来たときに渡せない。
 オヤジさんは非戦闘員なのだ。ハサミで挟まれてしまうようなことは避けたい。

 それでルシウスは、今日獲れたてのうちにロブスターを捌いておくことにした。
 ギルドの建物外の解体所を借りて、ロブスターを扱いやすいサイズにカットしておくことに。



 まず、作業台にルアーロブスターの青い身体を乗っける。
 まだ生きててギーギーうるさいので、魔法樹脂で杭を作って頭と胴体の境目と尾っぽのところに打って作業台に固定し、ナタで大きな2本のハサミを根本からぶった切った。
 ハサミだけでもルシウスの小さな頭の数倍ある。
 加熱は明日、オヤジさんにやってもらうとして、カットした端から魔法樹脂の透明な樹脂に封じ込めていく。
 こうしておくと時間経過なしで保存できて便利なのだ。

「これは食べ応えありそうなやつ!」
「ルシウスくーん。あたし、何か手伝えることあるー?」
「ないよー。ハスミンさん、刃物危ないから離れててねー」

 戦闘後、手持ち無沙汰だという女魔法使いのハスミンが解体所に付き合ってくれているが、魔法使いの彼女は刃物の扱いに慣れていないためお呼びではなかった。残念。

 ギイイーギイイイィー!

「頭は良いお出汁が出ると思う!」

 ちょうど、味噌のあるところまで頭部をぶった切り、また魔法樹脂の中へ。



 あとは脚を切り落としていくわけだが、本来の甲殻類の脚に混ざって、短い人間の足が十本、左右に生えている。
 ルシウスはそれらを慎重に一本一本、根本から切り落としていった。

「やっぱり」
「元のロブスターの脚に戻ってるわねえ」

 つまり、元々魔物として持っていた脚や、脚に相当する身体の部位が何らかの要因によって人間の生足になっているわけだ。

「海の魔物が陸に上がるために進化した……わけでもなさそうよね」
「人為的なものじゃないのかなあ。ハスミンさん、何か気づいてることないの?」
「この辺りの海岸は、魔力が他の地域より多いかなって思うわ。その影響による突然変異かしら」
「うーん……」

 わからない。何だかそれだけではない気がする。
 ひとまず、すべての捌いたロブスターを魔法樹脂に封入して壁際に積み上げていくと、作業台の上が真っ青だ。

「うわあ。ロブスターって血が青いんだね……」

 お魚さんたちのように真っ赤に吹き出してくる血液ではなかったが、切ったときにこぼれた半透明の身がへばりついていることもあって、作業台はものすごく汚れてしまった。

「これ何で掃除すればいいんだろ?」
「水洗いだけじゃ落ちない? あ、ブラシあるわよ、擦り洗いしましょ」

 棚から清掃用のブラシやタワシをハスミンが発見してくれたので、水を流しながら一緒に頑張って片付けたのだった。



 このとき、水を流しっぱなしにしていたのが良くなかった。

 ルシウスがハスミンとギルドの中に戻ると、食堂から例の飯マズ料理人の男が駆け寄ってきて、ルシウスを頭ごなしに怒鳴りつけてきた。

「このクソガキ! 水を一気に使いやがったな!?」
「……へ?」

 思わずハスミンと顔を見合わせてしまった。
 これまでも幾度となく解体所を利用して水洗いをしていたが、誰からも文句を言われたことのないルシウスだ。
 いったい、この男は何を言っているのだろう???