その日は暇だったので、午後は食堂でおやつを食べながらギルドマスターのカラドンや冒険者たちの武勇伝を聞いていたルシウスだ。

 ルシウス自身は口を開けば大好きなお兄ちゃんのことばかり(時々はパパのことも)だが、案外人の話を楽しげに聞くので、すっかりココ村支部の人気者だ。

「家族仲が良いなら、ここに一人で来てるのは寂しいだろ」
「うん……。父様からは手紙来るけど、兄さんからのはまだ一通もないのがつらい」
「兄弟仲悪いのか?」
「悪くはないよ。でも最近距離を感じてたっていうか」

 側に寄っていくと頭を撫でてくれるし、勉強も教えてくれるのだが、気づくと姿が見えない。
 またルシウスが近づくと相手してくれるのだが、少し経つとやはりどこかへ行ってしまう。

「好きな奴にはツレなくして気を持たせろって言うよな?」
「でもお兄さんだとどうなの? あたし、男兄弟いなかったからわかんなーい」

 ギルドマスターのカラドンと、女魔法使いのハスミンが軽口を叩き合っている。

「そこ、間違ってますよ! 好きなことは積極的にポジティヴな感じに伝える! 下手な小細工なんかしてると見透かされて逃げられますからね!?」
「わーお。クレアちゃんの経験談?」
「その通りですよチクショー!」

 受付嬢クレアは下手に男に気を持たせて失敗した経験があるらしい。

「ツレなくするか、ポジティヴ押せ押せで行くか……」

 ルシウスはどちらもシミュレーションしてみた。



 その一。

「に、兄さんなんて好きじゃないんだからね!」
「ふーん。オレだってお前なんか好きじゃないよ。じゃあね」

 ツンデレ発言すると、手をひらひら振って去っていく兄のリアルな姿が浮かんだ。


「つらたん。悲しくて泣いちゃう(;ω;)」

「「「そういうお兄ちゃんかー!!?」」」

 クールな感じのお兄ちゃんらしい。

「お前なあ、ルシウス。面倒くさい妹みたいなこと言ったら兄貴だってウザイだろが」
「でも鬱陶しいとか言われたことないもん」

 ここ数年、距離を置かれやすくなったというだけだ。



 その二。

「兄さん! 僕は兄さんが何でも一番だよ!」
「あっそ。まあ、……好きにしたら?」

 自分とよく似た顔の兄が、薄っすら頬を染めている姿がありありと浮かんだ。


「テイクツー! テイクツーでいく!」

 これはアリかもしれない。可能性を感じる!



「愉快な子ねえ」

 金髪水色目の女魔法使いハスミンは愉快そうに笑った。

 戦わせれば無双だし、人懐っこいし、家族が大好き。
 こんな僻地ギルドにいることが信じられないような子供だった。